梓の目が据わっていることにはあえて触れず、丸井が答えた。賢明な判断である。
「すっげぇイケメンだったぜい。金髪で背も高かったし、なぁ仁王。」
「確かにイケメンじゃったがいけすかん奴じゃ。」
話を振られた仁王はむすっとしながらそう答えた。
「仁王がイケメンだって言うならかなりのイケメンね。でもだからと言って私の雪と歩いた罪は消えないわ!」
「もう、お前なんなんだよ…」
と、そこで雪が話終わったようで、話に入ってきた。
「何の話〜?」
「ん?ちょっと悪い虫の話をね。」
悪い虫って、丸井が頬をひきつらせたが仁王はもっと言えとばかりに笑った。
「ふーん。」
「あ、吉田。昨日の黄瀬なんだけどよ、あいつテニスかなんかしてんの?俺どっかで見たことある気がすんだけど。」
丸井は丁度いいとばかりに雪に聞いた。
「きーちゃんはバスケ部だよ。」
梓と仁王は雪がきーちゃん、と呼んだことに反応を示した。
丸井はじゃあどこで見たんだ?人違いか?と首を傾げた。
「でも多分見たことあるっていうのはきーちゃん本人だよ?」
「何でわかるんだよい?」
雪がそう言い切るので不思議に思った丸井が再び質問した。
「だってきーちゃんモデルさんだからねー。」
さらり、雪が爆弾を投下した。
「そうじゃったんか?」
「えぇえええ?!」
でもそう言われると、確かにファッション雑誌で見たことがある。それにあんなにイケメンなんだ。モデルをしていてもおかしくない。丸井と仁王は驚きながらも妙に納得した。
が、梓はそうではないようで。
「モデルなんて、ダメよ!雪!遊んでるに違いないんだから、やめといた方がいいわ!」
「やめといた方がいいって、きーちゃんはただの友達だよ?」
梓の必死の形相に雪は一瞬びっくりしてから苦笑いで返す。
「え?そうなの?男の子なのにあだ名で呼んでるからてっきり…。」
「あはは、帝光のバスケ部のレギュラーは全員あだ名だよー。」
雪はそう言ってけらけら笑ったが、仁王は彼女の言葉に昨日の黄瀬の言葉を思い出した。
―「名字で呼ばれてるようじゃ、まだまだっすね。」―
雪と1番仲がいいと思っていた黄瀬だけがライバルだと思っていたが、どうやら他に何人も黄瀬ぐらい彼女と仲のいい男がいるようだ。
「(じゃけん"まだまだ"と言うことか。)」
まずは自分もあだ名で呼ばれなければ、同じ土俵ですら戦えないのだろう。
「(上等じゃ、あだ名どころか名前で呼ばせてみせるぜよ。)」
仁王は心の中で黄瀬や、知らない帝光のバスケ部レギュラーに宣戦布告をした。