「おはよー、あずちゃん、仁王君、丸井君!」
「「「雪!/吉田!」」」
教室に入って挨拶をしたとたん、名前を呼ばれちょっとびっくりする。
「左腕、大丈夫なの?!」
「お前、無茶すんなよ!」
「大丈夫なんか?」
3人一斉に口を開くもんだから、何を言っているのかよくわからない。
「えと、1人ずつお願ーい?」
心配されているにも関わらずなんとも呑気な本人だ。
「もう!腕よ、腕!」
「怪我したってきいたから心配してんじゃ!」
「俺も!」
今度は順番に口を開いてくれたので、よく分かった。どうやら皆心配してくれていたらしい。
「痕もあんまり残らないみたいだし、大丈夫だよ〜。心配してくれてありがとね!」
怪我をした腕をヒラヒラと振って見せながらそう言った。
「なら良かったわ!もう昨日は心臓止まっちゃうかと思ったんだからね?!」
「ごめんね、あずちゃん…。」
「つか他人助けて怪我するとか男前すぎんだろい。」
「私男前女子目指してるから!」
丸井の呆れたような声にそう返す。
「先週の球技大会で十分男前だったろい…。」
はあ、とため息を吐かれる。と、そこでさっきから黙りを決め込んでいた仁王が口を開いた。
「あんまり無理するんじゃなか…。で、それ、どうしたんじゃ?」
仁王は雪の手首に巻かれているブレスレットを差しそう言った。
「これはねー昨日幼馴染みにもらったの!優勝のご褒美だって。可愛いでしょ!」
「幼馴染みってペナルティがどうのこうの言ってたあの怖い?」
「そ!まぁ優しいところもあるんだよ!」
何気に失礼である。
そんな話をしていると、クラスメイトに名を呼ばれた。
「何か用があるんだって。」
指さされた教室の入り口を見ると、女の子が立っていた。
思わず梓の眉間に皺がよる。
「ファンクラブの会長じゃない。雪、行かなくても、」
「大丈夫だよ!」
最近仁王や丸井と仲が良いから目をつけられたのか、と梓は思い彼女の代わりに行こうかなんて思ったが当の本人はにへら、と笑い普通に教室の入り口に向かってしまった。
「金曜日の子だよね…?どうしたの?」
「覚えていてくださったんですか?!」
何だか凄く感動している様子だ。取り敢えずもちろんだよ〜と頷いたが、
「…っ!」
今度は泣きそうである。こっそり見ていた周りの人達は混乱しているが、1番雪が混乱している。
「あの、吉田様!」
「ん?(…様?)」
「お怪我は大丈夫でしたか?!私、吉田様のその白い絹の様なお肌に傷が残らないのか心配で心配で…!」
「や、大丈夫だよ。えーと、君こそ大丈夫だった?」
「勿論ですわ!
あぁ私としたことがまだ名乗っていませんでした!私桂木麗奈と申しますわ!吉田様っ」
なんて言うか、目がキラキラしているしとにかくキャラが濃い。色々突っ込みどころがあるが、流すことに決めた。
「桂木ちゃんね!よろしくーあ、様なんて要らないし、好きなように呼んで?」
「っあぁ!そんな私何かが!いや、でもせっかくのチャンスですし、この際お名前で…いや、でもっ」
何だからぶつぶつ言いながらも頬をほんのりと染めている。端から見れば恋する乙女だ。
それを見ていた人達は
(キャラが違う…っ!!)
切実に突っ込みたかった。丸井何かそろそろ耐えきれないのかぷるぷるしている。
「あ、あの!では雪様、とお呼びしても…?」
「あは、いいよー。」
「っ(なんて可愛らしのかしら…っ!)」
それもそのはず、雪の目の前で恋する乙女よろしく恥じらっている桂木麗奈は、かの桂木財閥の一人娘な上、テニス部ファンクラブ会長でおまけに典型的なお嬢様気質だったのだ。
それが、
「そ、その…雪、様、」
「うん?」
雪の名前を呼ぶだけで顔を真っ赤にしているなんて、あり得ない。
「本当に、ありがとうございました!私、あのとき助けて頂けなければ今頃…。
もしお怪我が痛む様な事があれば何なりと申してくださいませ!」
「気にしなくてもいいよ?桂木ちゃんみたいな可愛い子を護れたんだからこれぐらい安いもんだしね!」
そう雪がなんとも男前に笑った途端
ぶっ!
「え、か、桂木ちゃん?!大丈夫?!」
麗奈が鼻血を吹き出した。