「皆、テニス凄いなー。」
たまたま仕事が早く終わり、時間ができたので皆の練習している姿を見ていた。今日は水曜日なので麗奈は休みだ。
と、コートにいた人たちが捌けて2面分コートが空いた。どうやら試合をするようだ。
雪はマネージャーを始めてから初めて試合を見る。
まずは、赤也が真田に挑むらしい。
「むをっ?」
突然背中に重みを感じたと同時に、声が聞こえた。
「雪、見てたんだね。」
振り向くと、どうやら後ろに乗り掛かっているのは仁王らしく、銀髪が視界の端で揺れた。話し掛けて来た幸村同様、試合はまだなようだ。
「仕事が予想外に早く終わっちゃってねーそれにしても真田君って凄いんだねー」
真田はまだ赤也に1ポイントも許していない。
「一応三強の1人だからね。」
「あいつは手加減なんて知らんしのう。」
「ふふ、真田君って何に対しても真摯に向き合うんだね。」
普通は堅物なんて言われる真田も彼女はやはり本質を見ていてくれているようで、なんだか少し真田が恨めしかった。
「ありゃ、きりちゃん負けちゃった。」
その言葉にスコアを見ると、やはりストレートで真田の勝ちだった。
「次は俺だから応援して欲しいぜよ。」
「もちろんするよー!ゆーくんはまだなの?」
「俺は仁王の次だよ。俺のことも応援してくれるかな?」
「うん!」
「雪!行ってくるナリ。」
自分から幸村に向いた視線をもう一度自分に戻すように仁王はそう言った。
「あれ、にーくんの相手先輩だ。」
「ほんとだね。仁王は確かあの先輩と相性悪いから大変な試合になりそうだな。」
確かに、試合を見ていると相性は悪いみたいだ。けれど初めて見る仁王のプレースタイルに雪は純粋に凄いと思った。
さっき見たばかりの真田の技や、赤也の技、そればかりか今試合をしている先輩の技もコピーしている。
「にーくん、凄いねー」
「仁王はコピーが得意だからね。去年の終わりくらいからあのスタイルだよ。」
「へー。」
今繰り出しているサーブも誰かのものだろうか、とても速い。残念ながら返されてしまったが、それでも凄かった。試合にはやはり負けてしまったが、初めて見る仁王のプレーは雪を驚かせるのに十分なほど面白いものだった。
「次だ。行ってくるね。」
「うん!頑張ってねー」
コートに入った幸村と入れ違いに仁王が出てきた。
「にーくん、お疲れ様!」
「おん、ありがと。」
あんな試合をしたあとなのに仁王はどこか元気がない気がする。
「どうしたの?」
「、何がじゃ?」
「なんか元気ないよ?」
ポーカーフェイスは得意な筈なのに、皆気づかないのに、それなのに、どうして。彼女は気づいてくれるんだろうか。