がしゃん、とジュースが落ちる音がして雪はそれを取り出した。
「あれ、にーくんも自販機?」
「おん、雪は何かったんじゃ?」
「んふふーおしるこ!」
ぷしゅ、とプルタブを引き上げて一口飲んだ。
「おしるこ?!」
「私も始めはびっくりしたよ〜。まさかの自販機におしるこ!でも、友達の一口貰ったら美味しくてさ!」
けらけらと雪は笑いながら手の中のおしるこを見せる。仁王はそれでも怪訝そうな顔で眺める。というか、どうしておしるこを飲んでいたんだ雪の友達。
「もー美味しいんだよ?意外と!
一口飲んでみる?」
彼女はそんな眼差しに不満をもらす。いつもの仁王ならくつくつと笑いながらからかうが、今の仁王はそれどころではなかった。
「(か、間接キス…!)」
一見遊んでそうな外見をしている仁王は意外と初心だった。
「?おしるこ、嫌い?」
不思議そうに雪は仁王を見ている。仁王はごくり、と生唾を呑み込んだ。
「や、も、貰うぜよ。」
「じゃ、はい!」
内心どきどきしている仁王とは反対に雪は何てことないようだ。
仁王は一口、おしるこを飲んだ。
「ど?案外いけるでしょ?」
「お、おん…(飲んでしまった…!)」
何とかポーカーフェイスを保ってはいるものの、耳は真っ赤である。
「でしょ!」
でも何でもないことのようにそう笑った彼女を見て、冷静になる。だって自分は男として見られてないということをありありと示されているようで。
「雪は間接キスとか気にせんのか?」
少しでも意識してもらいたくてついそんな言葉が口をついて出た。でも、
「あ、そっか、間接キスだねー。」
彼女は意識すらしてくれない。何だか目の前で笑っている彼女を見ると悔しくて、切なくて、なんとも言えない気持ちになった。
そんな気持ちを晴らすように、仁王は彼女の腕を引き抱き締めた。
「わ、おしるこかかる「雪、」ん?」
「俺だって、男ぜよ。ちょっとは意識しんしゃい。」
そして、彼女の頬に口づけを落とした。
「?!に、にーくん?!」
漸く顔をほんのりと染めた雪に仁王は満足したのか、いつものようなくえない笑顔を浮かべる。
「もう遠慮なんかせんからの。覚悟しときんしゃい。」
まっすぐに雪を見つめ、そう言った仁王は結局何も買わずに来た道を引き返した。