よく俺は引きこもりだとか根暗だとか言われる。言われていい気はしないが、その指摘が外れているとは自分でも思わないし喧しい外の世界にいるより、鏡の中の方が落ち着ける。
ここは俺だけの城。ここでは俺の許可なしでは誰だろうと、何もできないし例えここから彼女の部屋を覗き込んでも、誰も、何も言わない。
「ああ、ナナシ、今日も綺麗だね。今日はブルーの下着なんだね、俺は昨日みたいな白くてかわいいやつの方がどっちかと言えば好きかな」
鏡越しにナナシのあられもない姿を見る。彼女もスタンド使いだが、そう注意深く鏡をじろじろ見る習慣はきっと無い。だからこんないかがわしいことが日常的に行われている。
「オイナナシ、お前部屋に鏡置いてねえか?」
「置いてるよ?」
「…そうか」
「どうしたの?」
「いや、最近イルーゾォが妙に機嫌良いからなんか気になってよォ」
「え、イルーゾォが私の事覗いてるかもって言いたいの?」
「まあそういう事だな」
「考えすぎだって」
「確かにそうかもしれねえが…」
「イルーゾォが何でそんなことするの、私に興味なさそうじゃない?」
「馬鹿、アイツが興味ありますって顔してるの見たことあるか?アイツは興味ありませんって顔して実はムッツリなんだよ」
「あはは、そんな感じするかもね」
「だろ?まァ気をつけろ」
「プロシュートがそんなこと言うの珍しいね」
「自分の恋人が慰み物にされるってのは良くないからな」
「ヘクシュン!」
あーなんだ風邪かな。どうせまた何処かで俺のことを悪く言ってる奴がいるんだ、もう慣れたことさ。ナナシはまだ部屋に戻ってきてないのかな、気になる。すごい気になる。ちょっと見てみよう。別にわざわざ鏡の中から見ることないんじゃないかって、馬鹿だな、この背徳感がいいんじゃないか。直接彼女の部屋を訪ねたところで、きちんと服を着て出てくるだろう。俺はナナシのコーディネイトを見たい訳じゃあないんだ。その薄い布を隔てた向こうにある柔らかそうな身体を俺は穴が開くほど見たいんだ。
「よぉイルーゾォ邪魔するぜ」
イルーゾォが鏡の中へ行ったのと同じタイミングでプロシュートが彼の部屋に来た。
「なんだ、いねえのか。 … 」
もしかしたら鏡の中に引きこもってるのかもしれない。よくあんな陰気くさい所にアイツも好んで行くよなァ。
…俺の考えていることは外れるべきだ、アイツのことを根暗だと罵るがそれでもやはりチームの一員だ。アイツを慕っている所もある。どうか杞憂であってくれ。この「考え」が外れなら、俺はもうお前のことを馬鹿にするのをやめてやってもいい。
元々今日は休みの日だ、イルーゾォが帰ってくるまでここで待っててやろう。それにしてもコイツの部屋は本もあまりない。あー暇だ。
「っハァ…ハァ…っ、あっ、ナナシ… …はぁ、」
最初は後ろめたかったこの行為も、慣れてしまった。それにしてもナナシの着替えを見るだけで抜いてしまうなんて俺もまだまだだな。まるで中学生じゃないか。そうだ、覗いているという行為に価値があるんだ。ゾクゾクするなあ。出すものも出したんだ、帰ろう。早くベッドで眠りたい。
「…」
「よォ、」
「人の部屋で何してるんだ」
「ちょっと気になることがあってなあ」
「そんな怖い顔しないでくれよ」
「そう見えるか?」
「見えるかも何も、そんな青筋立ててりゃあな」
「そうかよ、理由は言わなくても分かってんだろ」
「何のこと?」
「…っ!」
殴った。プロシュートが俺を。
「お前、やって良い事と悪い事があるだろうが!アァ!?」
プロシュートは切れて俺を蹴る。すごい力だ。
「オイ、立てよオラ、テメエはこんなんでくたばんねェよな」
今度は顔を殴る。多分奥歯の一本は折れただろう
いつものプロシュートじゃない。こんな顔、ペッシにだって見せたことないだろう。
「何の音ー? っ!ちょっ、ちょっとプロシュート!?」
ナナシが来た。
「ちょっとねえ、プロシュートやめなよ何してんの!?イルーゾォ死んじゃうよ!
イルーゾォ、大丈夫?」
「オイどいてろ」
「プロシュート!ちょっと落ち着きなよ!」
「俺は理由も無しにこんな事はしねえ、コイツはこんなんじゃあ足りないぐらいのことをしでかしたんだ」
「何があったか知らないけどやりすぎだよ!」
「知らねえなら出しゃばってくるんじゃねえ」
うずくまったイルーゾォを庇い、プロシュートを睨む。ナナシ、君は本当にマヌケだ。本当に愛しいよ。正しい事を突き通そうとする恋人を責め立て自分をオカズにした相手を庇ってるなんて滑稽もいいところだ。それよりも今俺の腕や肩に触れている君の体温が気になってプロシュートどころじゃないよ。あったかいなあ、ナナシはこんなにあったかいんだなあ。ああさっき出すものは出したはずなのになんだか込み上げて来る。俺はまるで中学生じゃないか。