僕はあなたの爪をよく見る。綺麗に整えられ、真っ赤なマニキュアを塗られているそれはやたらあなたを魅力的にした。

「フーゴ、どうしたの」

「…いえ、なんでも」

なんでも、だって。心の中ではあなたを無理やり押さえつけてその美しい指、手、胸、鎖骨、くびれ、性器ふともも尻をもみくちゃにしてああもう考えるとダメだ、こういうものは数えだすといろんなところが大変になってしまって、僕らしくない。僕はいつだって冷静で紳士だ。こんなの僕じゃない。教授をメッタ打ちにしたときさえこんなに緊張というか、興奮というか、そういったものはなかったのに。と言うかこれが本当の僕なんじゃあないか?最初はありえない、と振り払った思考だった。が、この思考はじりじりと僕を追い掛け回す。
僕は天才だった。天才だった。気づいた時には誰よりも未来を嘱望され、他人がいくら望んでも手に入らない学歴というものを手に入れていた。責任転嫁するようだけど、僕がこうまで感情を押し殺しそれが正しい姿だと錯覚し続けていたのは周りのせいなんじゃないか。そうだ、もし僕がナランチャとジョルノの中間くらいの頭脳の持ち主なら、それなりに出来ない科目もあっただろうし、周りと比べて持て囃されることもなかったはずだ。
僕は、僕は、天才だったのに、天才だったせいで、恋愛を知らなかった。僕が手に入れられないものなんてなかった、今までは
この人は僕の未知だ。どうすればいいか分からないんだこの僕が!天才の僕が!

「フーゴ」

「何です、ナナシ」

「なんか怖い顔してるわよ、大丈夫?」

「…大丈夫です、僕は、大丈夫です」

「変なフーゴ!」

どんな教科書や参考書を見てもこの答えはでない。あの教授に聞いてみようか、は、馬鹿馬鹿しい。












もどる

- ナノ -