ナナシの髪が。ナナシの髪が茶色くなっている。そういえば昨日美容室がどうのこうの言ってたな。俺とプロシュートは一瞬固まり、俺は何となく隣の部屋に逃げてしまった。
「でね、美容師さんに髪すごい褒められたの」
「ケッ、黒髪が珍しかっただけだろ」
「いや!すごい綺麗ですね〜って!」
「で、なんでオメーはその自慢の黒髪をわざわざ染めたんだよ」
「んー一回も染めたことなかったから?」
「俺は黒い方がナナシらしくて良かったぜ。まあオメーもやっと外見に気を遣うようになったってのはいいことだなァ」
「そこまで言うか…プロシュートって髪ほどいたらどうなってんの」
「別にフツーだ」
「て言うかこのチーム変な髪形多すぎると思うんだよね」
「まあ確かにな!イルーゾォの髪質なんて最悪だ!ギアッチョもよくあんな髪で生きていけるよなァ!」
プロシュートは急にヒートアップし始めた。
「ペッシなんて論外だぜ、そもそもあれ毛か?オイ!メローネはサラサラだからそこだけは認める」
仲間の髪型の話になると饒舌になるのかこの人。ああでもホルマジオはオシャレ坊主だな、とプロシュートは付け加えた。
「ねえ、リーダーって頭巾取ったらどうなってるんだろ?」
「アァ?普通なんじゃねえのか。」
「なんだ普通なのか…」
「それかはげてるかだな」
「えっ、それもやだなあ」
聞こえてる。聞こえてるぞお前達。そういう話はドアを閉めてやってほしい。別にはげてもいないし変な髪形でもないと思うし、頭巾を外したって得することも何も無い。
「ナナシ」
「ハーイ」
「コーヒー淹れてくれ」
「はーい」
「ナナシ」
「?はい?」
「染めたのか」
「ああ、そうなんですよ!思い切ってやっちゃいました!」
「…そうか。あまり派手にならないようにな」
「ああ、ハイ。」
俺も黒髪の方がいい。黒髪の方が絶対似合う。確かにイタリアであんなに綺麗な黒髪は目立つ。でもそれは、ナナシだけのアイデンティティーだったのに。いや、茶髪も似合っているぞ。相変わらずナナシは魅力的だ。だが茶髪なんてどこにでもわんさかいるぞ。黒髪はいるけど皆ゴワゴワしてる。ナナシの髪はサラサラしてるし、綺麗だった。あーあ勿体無い気がする。大体今の若い奴らはみんなそうだ。流行というものに流されすぎなんだ。染めたらケアをしないとすぐ痛むとも聞いたことがある。根元と毛先の色が違うのだってみっともない!そもそもナナシが髪だけ茶色くしたところで瞳も眉毛も黒いんだからちぐはぐな感じになるんじゃないか。いや茶髪も似合う。似合うんだが、正直黒髪の方がいい。犯罪組織のメンバーが、髪がパサパサプリンのチャラチャラなんて許されない!
…俺は何をダラダラと考えてるんだ、くだらない。
「リーダー砂糖入れます?」
「…多めで」
「珍しいですね!」
「ナナシ」
「はい?」
「あ、いや、すまない。気にしないでくれ」
「はあ」
「…ナナシ!」
「なんですか!」
「正直に言うぞ、黒い方が良かった」
「…ハイ?」
「あんな綺麗な黒髪を染めるのは勿体ないぞ!」
リーダーが力説しているのを見るのは初めてだ。
このチームは髪型の話に敏感なのか。
「決めた。決めたぞナナシ」
「な、なにを」
「明日美容室に行って黒染めしよう」
「えっ?」
「心配するな、俺が出す」
「いやいやちょっと…」
「何か問題でもあるのか」
「いや、問題って言うか…そんな立て続けにカラーリングしたら髪が痛みますし…」
「トリートメントもしてもらえ」
「あの、正直私茶髪似合わないですか?」
「…黒い方が良かった」
「はあ…」
「黒い方が似合う」
「リーダーは黒髪フェチなんですねー」
「お前だからな」
「…………!?」
「あ、すまん気にしないでくれ」
「えっ?どういう意味ですかね?」
「お前の黒髪が嫌いじゃないってことだ」
「えっ、え?それは、つまり黒髪の方が、リーダーの…」
「…タイプだな」
「タイプ…」
「そういうことだ」
「分かりました、黒髪に戻しますよ」
「ほう」
「その代わりリーダーの頭巾取ったとこ見てみたいんですよねー」
「…何でだ」
「見てみたいんですもん、どうなってるか」
「気が向いたらな」
「さあリーダー!私は戻しました!ちゃんと約束は果たしてくださいね!」
「仕方ないな」
「………案外フツーなんですね」
「見たってなんもいいこと無かっただろう」
「そうですね。でもリーダーは得しましたよね」
「何がだ」
「頭巾を取るってことだけで私が黒髪に戻ったし。恋人もできたし。」
「…別に」