「ナナシ」
「…はい」
「眠かったら寝てもいいんですよ」
「いや、大丈夫…大丈夫」
「別に、無理して起きてなくたっていいのに」
「無理とかしてないです…」
そう言うとナナシは大きなあくびをした。時刻は深夜3時を回ったところだ。ジョルノとナナシはアジトでブチャラティを待っていた。任務が終わり、あとはブチャラティに報告をするだけだ。が、ブチャラティは急な仕事が入ったとかで何時間か前に出て行った。
最初のうちナナシはソファーに深ーく座っていたのが、どんどん姿勢が崩れ、とうとう横になってしまった。別に悪いことじゃあない。任務は首尾よく終わったし、報告するのはジョルノ一人でもできる。眠かったら寝ればいいのだ。だがナナシは頑として眠くない、と言う。船を漕ぐ動作も、今ではしていない。ソファーに横になり、丁寧にクッションまで当てて寝息を立てている。
ジョルノはナナシの顔を覗き込んでみた。邪な気持ちが、少しもないと言ったら嘘になる。
「…いい大人のくせに」
無防備な寝顔は、まるで成人した女性とは思えなかった。ナナシは幼く見える。このチームの中で身長は一番低いし(女性なので当たり前か)、やはり日本人は、イタリアの女性に比べていくつも幼く見える。
ナナシは挨拶代わりのハグにも過剰に反応する。ハグであそこまで大袈裟に反応するなんて、イタリアの男と付き合ったらどうなるんだろう。彼女曰く、日本ではあまり人前でイチャイチャするのは良くないんだそうだ。
「ナナシ」
「っ… なに、なんか呼んだ…?」
「もうベッドルームに行ってください」
「ん〜〜…ブチャラティは」
「まだです、僕がやっておくんでナナシは先に休んでください」
「そんな、悪いよ。ジョルノだって眠いんじゃないの?」
「僕は平気です。それに女性の夜更かしは色々良くないですよ」
「何言ってるの…」
クッションに顔を埋めたままナナシは喋る。
「こないだから肌がガサガサしてますよね」
「…」
「髪もぱさついてるし」
「うぅ…」
「ほら、意地張ってないで寝てくださいよ、僕なら本当に大丈夫なんで」
「成長期の少年こそ寝ないと成長ホルモンが出ないよ」
ナナシが顔をこちらに向けて言う。
「何を言ってるんですか…僕は若いんで平気です」
「どうせ私はもう若くないわよ〜…うう」
またクッションに顔を埋めた。
「ソファーで寝るから、ブチャラティ来たら起こして…」
「…はい」
言い終えると早々と寝息を立てる。ああ、もうこの人は僕のことなんか何も考えちゃいない。僕だって中学生なんだから、もしかしたらそういう事が起こるかもしれない、と警戒したっていいのに。だから、だからベッドルームに行けと言ったのに。
ああ、ブチャラティはまだ来ない。早く、早く。