今日も彼はアジトに帰ってきた。ああ、生きていて良かった。彼が暗殺者の顔から人間の顔に戻るのが好き。
今日はアジトに誰もいないし、シャワーに入って二人でお酒を飲んで、その後は…今日は、どうなんだろうか。私は全然平気だけど、任務帰りの彼には辛いかもしれない。まあ、リゾットの体力はそうそう尽き果てたりしないだろうけど。

「うふふ〜…」

「ナナシ、飲みすぎだ」

「ぜーんぜん大丈夫!リゾットだって同じくらい飲んでるじゃない!」

「俺とお前とでは体のつくりも違うし、そもそもイタリア人と日本人ではアルコール抗体の…」

「長いです」

「悪い」

「ん〜〜〜…リゾットぉ」

「どうした」

「眠いよ」

「ベッド行くか」




「ナナシ」

「ん〜…」

「お前の肌は綺麗だな」
二人で横になって、リゾットが私の頬を撫でる。

「そうかなあ」

リゾットはただ私の頬を撫でる。その指が唇に触れる。

「なに…」

「柔らかいな」

「うふふ〜、ねえリゾット、」

「ナナシ」

リゾットの腕がナナシの腰に回る。目の前には鍛えすぎなぐらいの胸板が迫る。だが、それだけ。いつもはその手がナナシの胸を揉んだりはする。

「リゾット?」

「すまない」

「どうしたの?」

「今日は、」

「分かったよ、大丈夫」

「すまない」

リゾットはナナシに謝る。セックスをしないぐらいでそこまで気にすることはないんじゃないか。今までだって行為に及ばず、そのまま寝るということは何度もあったのに、今日はなぜか申し訳なさそうにしている。

「リゾット」

「…」

「今日なんか変だよ、なんかあったの?」

「いや、」

「うそ、なんかあったんでしょ?」

「…ナナシ」

「私に話せないようなこと?」

「違う」

「じゃあ、」
「ナナシ」

口調を荒げてリゾットが私の話を遮った。リゾットを見ると切ないようで威圧的な目をしていた。

「…すまん」

「大丈夫」

そう言うとリゾットは再び私を腕の中に納めた。さっきよりも腕に力が入っている。



ナナシには言えない。今日、チームの二人が殺された。ボスの過去を調べようとしていた奴らだ。その手段も、俺らでは到底考え付かないような手口。まさに神にも匹敵するやり口だった。残された俺たちにはボスの過去や正体を調べようだなんて浅はかな考えは最早消え去った。あんな残酷な「元仲間」を見せ付けられて、誰がボスの正体を暴こうとするだろうか。
こんなことをナナシに言ってどうするのだ。こういうことがあったから気をつけろ、とでも言えばいいのだろうか。こんなこと俺自身が忘れたい。いつかはナナシの耳にでも入ることだろう。俺が今血なまぐさい話をすることもない。そうだ。いつかナナシが知るまで、時間に任せよう。それでいいんだ。だから、もう少し、もう少しだけ俺の中で大人しくしていてくれ。












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