好きな人がいるらしい。と、メローネやプロシュートが話しているのを聞いてしまった。俺は盗み聞きすることに気を奪われ、とても甘すぎるコーヒーを入れてしまった。…捨てたい。でももったいないので少しずつ飲むことにした。

「・・・」

「・・・」

「・・・ナナシ」

「・・・」

「ナナシ!」

「えっ!あ、ハイ!なんですか!」

「…こないだ頼んだ書類は」

「あ、あー、出来てます!はいどうぞ!」

「…ご苦労」

「じゃあ私帰りますねェ〜さようなら」

「ああ」

今日ナナシを観察してハッキリ分かった。遠い目をしてニヤニヤしていると思いきや今度は真剣な顔で溜め息をついている。アイツは恋をしている。ナナシは普段はもっとしっかりしてるはずだ。そこら辺の女よりサバサバしてると思っていた。それが、あんなフワフワしてニヤニヤして、まるで乙女のようだった。
俺は馬鹿みたいに眠れなかった。ナナシに想われている幸福な男はどこのどいつだ。アイツがよく行くと言っていたバールのウェイターか?アパートの隣人か?まさかチームの誰か。いや、最後は多分ないな。


「…」
結局昨夜はあまり眠れなかった。顔色が悪いのはいつものことだしばれないだろう。
それよりも今日はやたらナナシに見られているような気がする。いや、見られている。気付かないフリをするものの、あんなに見られるとそろそろ知らないフリをするのもわざとらしい。

「ナナシ」

「ハイィ?」阿呆みたいな喋り方だ

「俺の顔になんかついてるのか」

「え、な〜んにも」阿呆みたいだ

「なぜずっと見ている」

「いや〜綺麗な顔してるなあって。  …!!」

「…」

「あ、あ、あ!う、嘘です!違うんです!イヤ違いませんけど…あの、そ、そういうアレじゃなくって…当たらずとも遠からずみたいな!」

「落ち着いて喋ってくれ」

「は、はい…あの、すいません、ジロジロ見て」

「…なんでだ」

「えっと、そのですね…お、落ち着いて聞いてもらえますか」

「分かったから落ち着いて喋れ」

「はい…わたし、リーダーが好きです」

「…」

ちょっと何言ってるか分からない。好き、だと。まさか。

「あの、」

「…なんだ」

「なんか反応してください」

「あ、あぁ…」

「人に落ち着けって言ったくせに動揺してますよね」

「そうだな…ちょっと一旦整理させてくれ」

ナナシは平静を装ってはいるが、内心リゾットよりどうしていいか分からない。せっかく二人きりになって会話のきっかけも出来て告白をしたのだ。整理したいのはナナシのほうだ。

「ナナシ」

「はい」

「信じられないかもしれないが、俺は…俺も、お前が好きだ」

「…えっと、両想いってことでいいんですか」

「そうだ」

「えっ、本当ですか?ラブラブってことですか?」

「それはこれからだな」

リゾットはナナシが気付かないくらいに笑った。この後、ナナシは何も無かったように、いつも通り仕事をして、いつも通りにアパートへ帰っていった。リゾットは、メローネ達の噂話をまた耳にした。ナナシに好きな人がいるらしい。今日は、うまくコーヒーを淹れることができた。













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