私の好きな人は鏡と仲良しだ。いつも鏡を持ち歩いてるし、部屋に大きな姿見もあるし、私より女らしいんじゃないか。それにあの髪。とても器用に結んでいる。多分あの髪の量だとこまめにブラッシングしないといけないし乾かすのも結構時間がかかるだろうなぁ。
シャンプーは何使ってるのかなあ。多分コンディショナーもしてるはずだ。一度、シャワー直後の彼とお喋りをしたことがある。すごいいい匂いがした。それより何より髪を下ろしている彼を、その時初めて見た。勿論かっこよかった。ポーっとしてしまった。イルーゾォは髪縛りゴムをいっぱい用意してあるのかな。縛る時は口にゴム咥える派かな。そうだといいな。

「アァァもう何考えてるの私!!」

「っなっ、なになに!?急に叫ぶなよ!」

「メローネ聞いて!私好きな人いるんだけどね」

「イルーゾォだろ」

「ハァッ!?何で知ってるの!?」

「君、前イルーゾォのブラシの匂い嗅んでただろ」

「え、見てたの?」

「うん、正直俺と同類だと思ったぜ」

「それはちょっと…あっ、ていうかそれ本人に言ってないよね?」

「今更変態なの隠さなくていいぜ?言うわけ無いだろ!こういうのはコッソリやって、本人が知らない内にブラシとか使ってるのがロマンだよなァ」

メローネは力説してますよって言うポーズで私に説く。こういう奴と私は同類か。ちょっと嫌だ。

「そんなことしなくてもさァ、告っちゃえばいいだろ?」

「いやあ無理だよ〜…」

「告白できないくせにブラシは嗅ぐの?変態だな!」

「だって…だってイルーゾォ絶対私に興味ないよ。」

「そうやって決め付けるなよォ!アイツだって男だぜ〜?女から告白されたら嬉しいに決まってる!」

「だってもしふられたらイルーゾォにだって迷惑だよ…チーム内で恋愛とかも考えられなさそうだし…」

「んな事言ったって、君はすでに恋してるんだろ?それを無理に諦めるのは良くないなァ〜」

「うう…そうだけど…」

「振られるのが怖いんだろ?そんなの振られてから考えれば?」

「うーん…メローネはどうなの?」

「オレ?オレはもう、すぐ言うよ!大好き大好き愛してるって何回も言うね!オレは一目惚れだって全然アリだし」

「羨ましいよ…」

「愛してるって言うだけだぜ?ナナシもやってみろよ」

「うぅ…善処します…」

て言うか私がメローネに本気の相談をする日が来るなんて思ってもみなかった。
でも彼の恋愛に対する価値観は私とは真逆で、大したもんだな、とも思った。


「ナナシー」

「あ、はい?」

「俺シャワー入ってもいい?ナナシが先でもいいけど」

「あ、全然いいよどうぞどうぞ!」

「なんかナナシ変だなーどうしたの?」

「なっ、なんでもないよ!」

決めたのだ。私は今日イルーゾォに想いを伝える。メローネに相談したことが功を奏したのか、何故か告白しないと絶対後悔すると思ったのだ。恋愛に関しては全くの木偶の棒な私が、こんな決意をしたのだ。今日言ってしまわないと、今度はいつ勇気が出るかわからない。ああソワソワする。手汗がすごい、動悸もすごい。死にそう。ロクな恋愛もしたことない私が告白するなんて天変地異の前触れだろうか。


「ナナシーシャワー空いたよー」

「ああぁハイッ!シャワーねっ!シャワーシャワー!!」

「…ほんとに今日なんか変だぞ?」

「っ、そんなことないよ、私いっつも変だから」

「はは、何言ってんだよ」

「あ、あの…イルーゾォ、?今ちょっと、話したいことあるんだけど…」

「なに?」

「あ、あの、その…あ、あのね…いま、す、好きな人とかいたりします?」

「え?うーん、いないなァ」

「わ、私なんてどうでしょうか」

「は?」

ああもう恥ずかしい死にたい消えたい。なんだってこんな上から目線の言葉を選んでしまったのか。選んだというよりなにも思いつかなかった。気付いたら私なんてどうでしょうか、と言っていた。もっとカワイイ言葉はたくさんあったはずだ。は?って言われても仕方ない。何言ってんだこの女とでも思われているんだろうか。それも当然だ。イルーゾォの顔が見れない。私の視界に広がるのは涙だけだ。俯いてるもんだから溢れ出しそうだ。そうなったら彼は優しいから一生懸命私を慰めるのかな。そんなことされたら余計好きになってしまう。私の独占欲が暴走して彼を引き止めてしまうかもしれない。でも好きなんです。あなたのことが大好きなんです。だから早く返事をしてほしい。いやしてほしくないかも。もう答えは見えているのだ。

「うっ…ぐす、ごめん、ごめんなさい、っ」

「ナナシ、」

「ごめん、っ、迷惑ですよね、ごめん、うぅ」

「ナナシ、迷惑なんかじゃない」

「ぐっ、私、イルーゾォのこと、好きなのッ…ぐすっ、」

「ありがとうナナシ、嬉しい」

けど、ごめんね。彼はそう言うんだろう。彼もイタリアの男だ。女には優しいんだろうな。こんなぐしゃぐしゃに泣いてる女には勿体無い国民性だ。

「俺も好き」

「はぁ…そういうの、いいです」

「冗談じゃなくってさ、俺ホントにナナシの事好きだ。これだけじゃ信じられないか?」

「…うぅ、」

「そうか、じゃ」




「っ!」

「分かってくれたか?」

「…はあ…」

「あーあ、そんなに泣くなよ、ひどい顔だぜ?」

「う、生まれつきです…」

こんなことがあっていいのか。両想いってことか。いい歳してこんな展開漫画でしか見たことなかった。しかも、しかも…いま、キスをしてしまった。イルーゾォが私にキスした。口付け。やっぱり彼もイタリア人だ。キスもそうだし、腰に手を回してくるところとかも。











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