新人が入る、と言われた。冗談じゃねえ。新人はジョルノだけで充分だ。これ以上足手まといが増えるのは良くない。俺のストレスが増えて寿命が縮みそうだ。
「ナナシです。田中ナナシ。」
「おぉぉ〜〜〜ッ…」
「女かよォ!ブチャラティ!」
「そうだ」
「…女が入ってくるたあこのチームもなめられたもんだな」
「おいアバッキオ、ナナシはちゃんと入団試験も合格したスタンド使いだぞ」
「だからなんだ、スタンドを持ってようが結局本人の力量だからな」
「俺がそんなことも知らずに新人を入れると思うのか」
「どうだかな…」
「あの、ブチャラティ」
「あァ、何だ女、今ブチャラティは俺と喋ってんのがわかんねーのかよ」
「よせアバッキオ。ナナシ、俺らはお前を女だからと言って甘く見たりするつもりはない。その点はいいか?」
「大丈夫」
「テメー大丈夫です、だろうがよォ」
何もかも癇に障る女だ
「おいアバッキオ!」
「ちょっと…!」
俺はナナシの胸倉を掴み思いっきり引っ張りあげ壁に追い詰めた。
「う、うう、離して」
「テメー言葉遣いがなってねえんだよ」
「やめろよアバッキオ!」
「ッ…フン
オメーらがコイツを甘やかしても俺はぜってー認めねえからな」
アバッキオはナナシを放り乱暴にソファーへ腰を落とした。
「ナナシ、こっちに来い。お前の部屋を用意してある」
「オイオイアバッキオよォ〜、あそこまでやることないんじゃねーのかァ」
「そうですよ、ブチャラティが連れてきたんだから」
「うへへッ、あの子オレと同じ髪の色だった〜」
「うっせーぞおめーら。俺はぜってーにあんな女の面倒なんか見ねえ。大体アイツどう見たってアジア系じゃねえか、イタリアでギャングやるなんて怪しすぎるだろ」
「そういう人種差別はよくないぜェ〜?」
「そんなんじゃねえ」
それから2ヶ月ほどが過ぎナナシは打ち解けていった。ミスタとはいつもコントのような下らないやり取りをしてるし、ナランチャにはまるで弟みたいな扱いでちょっかいを出している。馴染んでいるのだ、昔からのメンバーだったように。
俺とは相変わらず必要な限りの会話しかしない。俺はさすがにあの日みたいに激昂することは無くなったがそれでも信用はしていない。ナナシも俺を苦手に思ってるんだろう。俺だってその方が好都合だ。
夜中、俺は喉が渇いて目が覚めた。そうか、今日は任務が終わって、アジトでブチャラティを待ってる内に寝ちまったんだ。ブチャラティはいつ帰ってくるか分からない。
「?」
キッチンの方へ行くと、窓の近くで地べたに座っているナナシを見つけた。
(…アイツ何やってんだ?)
こんな時間に、電気もつけないで。
「…よォ」
「!っ、あ、あぁ〜、びっくりした…」
「こっちの台詞だ。こんな夜中に何してんだよ」
「うーん、月を見てた?」
「なんで疑問なんだよ、お前って自分でアパートとか借りてねえのか?」
「うん」
「何でだよ」
俺はソファーに座る。今日は確かに月が丸い。
「私は犯罪者だからかなあ」
「そんなの組織の力でなんとでも、」
「違うわ、日本にいたとき」
「お前何かやったのか」
「私ね、人を殺したの」
「ほお」
「私実は、警察官だったのよ」
「…!!」
一気に体温が醒めるのが分かった。ナナシが俺の方を見もせず続ける。
「強盗犯を撃ったの。そいつ、たまたま現場にいた小さい子人質にしてたし、覚醒剤での執行猶予もついてたから、捕まらないように必死で」
「そいつも自暴自棄になってたんだと思う。銃持っててさ、所構わず乱射したの。それで人質の子が怪我しちゃったのね。それ見たら、なんか限界で、撃っちゃった」
「…」
「一発で心臓狙って。犯人は即死だった。」
「…でも、それなら正当防衛とか、射殺は仕方ねえんじゃねーのか」
「日本では銃は許されないのよ、例え法律や憲法で守られていても、私は人を殺したの」
「そんな危ないヤツを、しかも執行猶予があるやつでもか」
「そう。それにね、その時現場にいた一般市民の目の前で人を撃ったもんだから、みんなPTSDみたいな症状出ちゃってさ。それからはすごかったよ、撃たなくたって良かったとかあの警察官は殺人者とかいろいろ」
「…それでイタリアに」
「うん。なんとかツテを使ってね。日本では私死んだことになってるから」
震えが止まらなかった。俺たちはとんだ似たもの同士だ。正義であったはずの志がグチャグチャに曲げられ、真っ暗な世界に放り出されたのだ。
俺はコイツの話に引き込まれるようだった。
「ごめんね、長かったでしょ?もう寝る?」
やっとこっちを見てナナシが言う。
「…いや」
「良かった。なんか、きれいな満月を見るとどうしようもなくなって、何も考えられなくなっちゃうんだよね」
「俺も」
「アバッキオが?悪いけど、あんまり似合わないかも」
「違ぇ。俺も、…俺も、警官だったんだ。」