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DIOに運ばれる

■ ■ ■

 DIOが夜の散歩から帰って来ると、ヒヨリが暗い廊下の端で蹲っていた。暗がりに同化しているので、気が付かなければ危うく蹴り飛ばすところだ。ヒヨリが朝から高熱を出して床に臥せっているというのは知っていたので、こんな所で蹲って何をしているのか、とDIOは眉をひそめる。
 おい、と声を掛けようかと思ったが、ヒヨリが未だに自分に慣れておらず、トラウマとやらで距離を置きたがっているのを思い出し、密かに舌打ちを溢した。具合が悪いところに声を掛ければ、胃腸の弱いヒヨリの事だから、また嘔吐するに違いない。

 DIOは密かに息を吐き、リビングにいるであろう吉良かカーズ辺りを呼ぶ事にした。ヒヨリの横を通り過ぎようとした時、ふと様子が気になって視線を落とす。ヒヨリは壁にぐったりと寄りかかり、弱々しい息を漏らしている。
 漸く此方の気配に気が付いたのか、彼女がゆるゆると顔を上げたのを見て、DIOはしまった、と思う。此処で嘔吐されては堪らない。息を詰めて様子を窺っていたが、廊下が暗いのと、ヒヨリが高熱で意識が朦朧としている為か、自分の傍にいるのが誰か分かっていないらしかった。

「………大丈夫か」

 此方を見上げたままぼうっとしているヒヨリに、DIOは気が付けば思わず声を掛けていた。声でバレるかと思ったが、そうでもないらしい。ヒヨリは二三度瞬きをした後、「きもちわるくて…」と言って、へら、と力なく笑った。どうやら、急に吐き気に襲われたのでトイレに駆け込んだは良いが、部屋に戻る途中で再び具合が悪くなり、そのまま廊下に蹲っていたようだ。
 DIOは一拍置いて、ヒヨリにそっと手を伸ばす。自分よりも随分と小さな体をゆっくりと抱き上げてやれば、相当具合が悪かったのか、ぐったりと胸に寄り掛かって来た。洋服越しでも分かるほどに体は熱く、これでは意識が朦朧としているのも頷けるな、とDIOは思う。

「まだ熱が高いようだな」
「…さっき計ったら、また39度こえてて…薬は、のんだんですけど…」

 はふ、と苦しげに息を漏らしたヒヨリに視線を落とす。嫌がられる事も、怯えられる事もなく、こんなに距離を縮める事が出来たのは初めての事だ。ヒヨリがこの荒木荘にやって来てから数週間経つが、幾分警戒心や緊張が解け、他の住人とも打ち解けた様子が見受けられる。
 特に一番最初に出会った吉良や、何かと庇ってくれるカーズには一段と懐いている。しかし、DIOに対しては未だにトラウマの陰が邪魔をしているようで、彼らに比べれば、全くといって良いほど、ヒヨリとDIOは距離を詰められていなかった。

 荒木荘に来てからの数日に比べれば随分と成長はしたのだが、DIOはどうにも面白くなかった。最初はどうでも良いと思っていたのだが、こう長く同じ場所で生活していれば、流石に気にもなる。つい先程まで吉良やカーズ達と笑顔で話していたくせに、少し名前を呼んだだけで顔色を変えるヒヨリを見ると、無性に腹が立って仕方がなかった。そうして、気が付けばヒヨリにちょっかいを掛けてしまうのだ。
 そんなDIOを見て、カーズは「堂々巡りではないか」と馬鹿にしていた。ぐだぐだと考えているのを止め、昔にやっていたように肉の芽を埋めれば楽に済むとは思うのだが、吉良に爆破されかねない。そういう訳で、正直なところ、DIOはヒヨリとこれ以上どう接して良いのか良く分かっていなかった。

 ちら、と再び視線を落とせば、ヒヨリは自分の腕の中でうつらうつらとしている。普段ヒヨリと接する時のものではない、何とも言えない気分になって、そんな自分に気が付いたDIOは、自身を嘲るように小さく笑った。ヒヨリを抱え直し、指で頬の輪郭をなぞってやれば、ひやりとした体温が心地よかったのか、すり、と指先に擦り寄られる。甘えられるのも悪くはない。
 DIOが密かに口角を吊り上げていると、ヒヨリが布団に戻っていない事に気が付いたのか、吉良がリビングから廊下に顔を出す。そうしてヒヨリを抱えているDIOを見付け、ぎょっとしたように目を見開いた。

「DIO…!?ヒヨリは大丈夫なのか…?」
「意識が朦朧としているせいで私だと分かっていないらしい。まァ、今は都合が良いがな」
「そうか…それは、…まあ、良かったな」

 DIOがリビングの方に歩いて来たので、漸くその表情が見て取れるようになる。何処か満足気な表情を見てしまい、吉良はもごもごと口を動かした。ヒヨリはDIOの腕の中でぐっすりと眠ってしまっている。吉良がヒヨリの額に張り付いた髪を指で退かしてやるが、起きる様子は無かった。
 そのまま布団まで運んでやり、寝かせたところでカーズやディアボロ達もDIOに気が付いたらしい。先程の吉良のようにぎょっとした表情を浮かべた彼らを見て、DIOは密かに優越感に浸ったのだった。

 ――翌日、吉良からDIOの話を聞いたヒヨリは、その時の事をぼんやりとしか覚えていなかったらしく、驚きと混乱から、胃を押さえて暫くの間動かなかった。