■ お前の記憶に

「…土方先生?」


『……もうお前の先生じゃねぇ。』


これは毎朝の出来事だ。


『お前と俺は夫婦だ。ほら、結婚式の写真だ。』


「…私、また記憶がないんですね。」


愛はある日を境に結婚前までの記憶しかない上、病気で記憶が一日しかもたない。


毎日、どれだけ愛を愛しても、コイツの記憶にはこれからの俺は刻まれない。


愛もカレンダーを見ては、自分の時間が進んでいないことに気付き、毎回落ち込んでいる。


『そんなに落ち込むな、お前が悪い訳じゃねぇんだ。』


「だって、土方先…土方さんにも…」


『愛、お前も土方なんだ名前で呼べ。』


愛の頭を撫でながら笑いかけると


「えっ、あっ、…とっ歳三さん?」


『はてなはいらねぇよ。ふっ』


顔を赤くしながら首を傾げ、俺の名前を呼ぶ愛。


『今日は土曜日だ、どこかに出かけるかっ。』


「…いいえ、歳三さんと家でゆっくりしたいです。」


…ゆっくりか…


一日は長いはずなのに愛と過ごす時間は早くて寝るまでの間を一分一秒でも愛を愛したかった。


少しでも愛の記憶に残ることを望んで…


『愛、何か飲むか?』


ソファーで足を抱えながらDVDを観てい愛に声をかけると


「歳三さんの入れたコーヒーが飲みたいです。」


『ココアじゃなくていいのか?』


「はい。歳三さんの入れたコーヒーは世界一ですから。」


――!!
俺はビックリした。


昔みたいに愛に褒められたのは久しぶりだった。


『愛、お前…』


「覚えてるとは言えませんが、体は覚えてるみたいで。」


と少し嬉しそうに笑う愛。


『そうか…』


少しでも愛の記憶にと思っていたが、体が覚えてるか…


そう思いながら愛にコップを渡した。


「ふふっ、やっぱり美味しいですね。」


俺は愛の横に座り、軽く愛を抱きしめた。


「今日の歳三さんは甘えたさんなんですか?ふふっ」


『わりぃか、お前の中の俺が消えてなくて嬉しいんだよ。』


「…………」


俺の気持ちに気付いたのか、黙ったまま俺を抱きしめ返す愛。


愛の温もりが心地好かった。
俺の存在を確かめる様に温かい温もりで包んでくれる。


俺は涙を堪え、目を閉じた。


「……さん。…歳三さん。ご飯出来ましたよ。」


『わりぃ、寝てたか…』


「はい。気持ち良さそうで…だからご飯作っておきましたから食べれますか?」


『あぁ、食べる。』


そう言いテーブルに向かうと俺は驚いた。


そこには俺の好物ばかりが並んでいた。


記憶がなくなってからこんなことは一度もなかった。


「驚いてるみたいですね。今日はなんだか大切な日な気がして…で、料理してたら少し思い出したんです。…今日、結婚記念日ですよね?」


『愛っ!』


俺は思わず愛を抱きしめた。


「歳三さん…こんな私でも愛してくれてありがとうございます。」


『お前に記憶がなくても、俺が愛したのは愛自身なんだ。』


「私、幸せ者ですね。ふふっ。ご飯頑張って作ったんです、食べましょう。」


『そうだな、食うか。』


俺達は新婚旅行やこれまでの話をした。


愛の記憶は所々なかったが嬉しかった。


今日は時間が過ぎるのが早かった。
時間は12時を回ろうとしていた。


「今日は色んな事、思い出せてよかったです。」


そう言いながらベッドに入り、俺の手を握る愛。


少し黙ったかと思うと小さな声で


「…ごめんなさい。愛した貴方の…歳三さんの記憶を無くしてしまって…」


震えながら俺に擦り寄り


「明日また、私の中の歳三さんは白く塗り潰されてしまう…だけど貴方が愛してくれた事を忘れたくありません。だから、私の体に刻み込んで下さい。」


『愛…』


涙を堪え、俺を見る愛。


『お前の中で俺が消えようと何度だって愛してやるよ。』


「歳三さん…愛してます。」


『愛…愛してる。』


俺達は朝が来るまで何度も愛し合った。


疲れて愛はすやすやと寝ていた。


また、目覚めれば“先生”って呼ばれるだろう…


少し寂しい気持ちになったが今日みたいな事があるかもしれねぇ、覚えてねぇならまた愛せばいいと思った。


喉が乾いてリビングに向かうとテーブルに一通の手紙とペットボトルに入った水が置いてあった。


《歳三さんへ、喉が渇いたら飲んでね。後、この手紙見付けたので読んでください。愛》


『手紙、見付けたっていつのだよ。』


そう言いながら手紙を手に取り読んだ。
それは俺と結婚してすぐの愛からの手紙だった。




――――――――――
歳三さんへ


この手紙を読んでるって事は、私やっぱり記憶なくなってるのかな?

せっかく先生から旦那様になってもらえたのに…
ごめんね


今日、結婚記念日だよね?
この日を覚えてたら歳三さんにこの手紙を渡せる様にしまっておいたの


歳三さんは夜、激しいから私が寝た後こっそりお水飲んでるでしょ?

だからお水と一緒にこの手紙置いて貰ったの

面と向かって読まれると恥ずかしいから…


神様って残酷だよね

私から歳三さんの記憶を取り上げるなんて

でも、私は死ぬまで歳三さんが大好きで愛してます


こんな私と結婚してくれてありがとう

私を愛してくれてありがとう




愛より

p,s
明日の私によろしくね

毎日、私を愛して下さいね




――――――――――




「ふっ、愛して下さいねか…」


俺は水を飲み愛の寝る寝室へ戻り、愛に口づけをし、これからも愛を愛し続ける事を誓い眠りについた―――










=あとがき=
リクエストで歳の差夫婦で切甘でということでこんな感じにしてみました(≧ε≦)

いかがでしたでしょうか?

愛様、最後まで読んで頂きありがとうございました♪
2012.7.18

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