■ 貴方と私の距離の先に[前編]

『左之さん、おはようございます。』


「よう、愛。」


私には大好きな人がいる。


それは目の前にいる会社の先輩の原田左之助さん。


彼には私の入る隙がないくらい仲のいい彼女がいて、いつも幸せそう。


だから、左之さんが幸せなら傍に居れるだけでもいいと思って今日も彼の近くに行く。


『今日も一日、頑張りましょうね。』


笑顔で言うと左之さんは頭を撫でてくれて


「お前の笑顔を見ると一日頑張れるよ。」


『それはよかったです。』


なんて平然を装ってみたけど鼓動はバクバクしてて、早くこの場を離れないと赤くなっちゃうと思い


『す、すいません。ちょっとお手洗いに。』


「お、おい。」


私は左之さんの手を振り払う感じに走って行ってしまった。


『はぁ…どうしよう。さっきのは失礼だったよね。』


いくらなんでもあれは駄目だよね。


私でも振り払らわれたら、嫌われてるのかな?とか思っちゃうし…


『あっ、やばい。朝礼始まっちゃう。』


私は急いで自分の部所に向かった。


『あっ。』


部屋に入るなり、左之さんと目が合ってしまった。


「おい、愛。さっきは悪かったな、急に頭なんか撫でて。」


やっぱり…
誤解説かなくちゃ。


『ち、違いますよ。家、出てから我慢してたんです。』


「そうか…、それならいいんだけどよ。」


何かふに落ちない感じで左之さんはデスクに向かった。


一日はあっという間でもう終業時間。


今日はあのまま左之さんと気まずいままで、気になって仕方なかった。


そんなことを考えていると隣の部所の千鶴ちゃんがやってきて


「愛ちゃん、これから予定ないよね?」


『う、うん。特にないけど、どうしたの?』


「えっと、…一緒に食事に行かない?てか、来てほしいの!」


私の手を掴むと引っ張って行く千鶴ちゃん。


『え?あっ、わかったからゆっくり行こ?』


「ご、ごめんなさいっ。」


困ってるのに気付いた千鶴ちゃんは深々と頭を下げた。


『千鶴ちゃん、これはどういうことかな?』


今、私の前にはうちの会社でも1、2を争うくらい人気のある、沖田さんと斎藤さんがいた。


「黙っててごめんなさい…」


「桜彼、千鶴は総司に脅されていたのだ、あまり責めてやるな。」


『はぁ…沖田さん、私、前にお断りさせてもらいましたよね?』


「僕は諦めるとは言ってないよ。」


そう私は先日、沖田さんに告白され、断ったのだ。


『私の気持ちは変わりません。』


「左之さんが好きなんでしょ?」


『わぁーー!!』


なんで二人がいる前で言うかな…


「え?愛ちゃんそうなの?でも原田さん彼女い「雪村!」」


斎藤さんが千鶴ちゃんの言葉を止めてくれたけど


『大丈夫ですよ、斎藤さん。知ってますから…』


「ね、だから左之さんなんか諦めて僕にしなよ。」


『“なんか”ってなんですか?いいんです。左之さんが幸せなら…それに傍に居れるだけでいいんです!』


そんな話を聞こえてないかの様に私の横に来て手を握る沖田さん。


『放して下さい。』


そう手を振り払おうとした時


ガシッ


誰かが私の腕を掴み、引っ張られて店を出た。


『あ、あのー。っあ!』


ドンッとその人の背中にぶつかった。


この香りってもしかして…
と見上げると


『さ、左之さん?』


「…………」


さっきの話、聞かれたのかな?
好きって…どうしよう…


「…総司と…」


『えっ?』


真剣な瞳で私を見る左之さん。


「総司と付き合うのか…?」


『え?沖田さん?それはな「愛ちゃん、大丈夫?」沖田さん!?』


ハァハァと息をあげながら走って来た沖田さん。


「左之さん、急に愛ちゃん連れてかないでよ、荷物も置いたままで。」


「すまねぇ。」


「はい、愛ちゃん。」


私の荷物を渡してくれる沖田さんは少し怒っていて


「左之さんは何がしたいの?彼女いるんでしょ?愛ちゃんから手、放しなよ。」


無言で私の腕から手を放す左之さん。


「千鶴ちゃんが心配して待ってるよ。行ってあげて。」


『え?沖田さんは?』


「僕はちょっと左之さんに話があるから、先に行ってて。」


『…はい、わかりました。』


何故か居ちゃいけない空気が流れてたので私はその場を後にした。


「左之さん、愛ちゃんをどうしたいの?」


「どぉって…それは…」


「左之さんは彼女居るよね?二股でもかけるつもり?愛ちゃんがそれでもいいって言っても僕は許さない。」


そう言って左之助の襟を掴む沖田。


「ちげぇよ。わかってんだよ、どうしたらいいかなんてよ。」


「じゃあ、さっさと片付けなよ。そんな曖昧な左之さんに愛ちゃんは譲らない。」


ドンッと左之助を突き放し沖田は愛の後を追った。


「待っててくれ、愛…。俺は…俺は…」


夜の空を見上げ、立ちすくむ左之助だった。


『あ!沖田さん。』


「ごめんね、先に行かせて。」


私の頭を優しく撫でてくれる沖田さん。


『あの…左之さんは?』


「ん?片付けないといけない事があるから帰ったよ。」


『そう…ですか。』


なぜ、あの場所に居たのか、なぜあの質問をしたのか気になったが、彼女の所にでも帰ったのかなって思うと少し悲しくなった。


「僕じゃ、やっぱり駄目?」


私を優しく抱きしめてくれる沖田さん。


何故か腕に力が入らなくて沖田さんの胸に顔を付けた時


『あっ、私、泣いてたんですね…。すいません。』


「いいよ。僕はただ君に笑っててほしいんだ。」


その優しさが心の悲しさを隠してくれる様で


『ごめんなさい。今だけは泣いていいですか?泣き止んだら、いつもの私に戻りますから…』


そう言って私は沖田さんに腕を回した。


今日だけは貴方の優しさに甘えさせて下さい―――










=あとがき=
愛様、最後まで読んで頂きありがとうございます♪

ちょっと長くなるので分けさせて頂きました(^_^;)
続きを急いで仕上げる予定なのでお待ち下さいね(>_<)
2012.6.21

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