■ 温もりを君に[後編]

「私、未来から来たみたいです。」


あの時の愛の言葉には驚いた。


最初はなに言ってんだ。とか思ってたんだが、愛の言動を見ていると本当にそうなのか?と思うようになった。


でも、アイツは何故か落ち着いていた。


俺なら知らない場所でましてや平和な時代から来たとなりゃ、俺達の時代はいつ死ぬかもわからないのに不安はないのか。


そんな事を思いながら愛の監視についていた、ある夜。


「―――ヒック、……グスッ」


『ん、愛?起きてるのか?』


「…………起きてません。」


いやいや、起きてるだろ。


『…………。』


黙って障子に手をかけると


ガタッ


勢いよく障子を押さえる愛。


少し震えた声で


「すいません。すぐ寝ます、………だから、開けないで下さい。」


“開けないで”その理由はわかってんだ。


『泣いてんだろ……。俺に背中向けてていいから、入れてくれ。』


そう言うと、スッと障子が開き、奥には俺に背を向け小さく膝を抱えて座る愛がいた。


千鶴と同じ位の歳なのに少し大人びて見えていた昼間とは違って、泣いて震える愛は年相応の少女だった。


そんな愛に近づこうとしたら


「来ないで下さい、こんな姿見られたくない……グスッ」


『―――っ!』


拒まれたのか?


ただ心配で、泣いてるお前を見てられねぇだけなのに。


『不安…なのか?』


そう聞くと小さな声で


「……私、帰れるんでしょうか?」


やっぱり恋しいよな自分がいた時代が、


『わからねぇが、こっちに来たんだ帰れる方法だってあるかもしれねぇ。』


「そうですよね、…………。」


黙る愛、まだ何かあるのか…。


「………ヒクッ」


『どうしたんだよ。』


「…………私は、私は皆さんの元に居てもいい存在なんでしょうか、」


その言葉を聞いた途端に体が自然に動いた。


「―――っ、はっ原田さん!?」


そうだよな、いきなり抱きしめられちゃあ驚くよな。でも…


『愛、お前がそんな悲しい事を言うからだ。』


「だからって。」


唐突の行動で泣き止んだ愛。


『お前は居ていい存在なんだよ。少なくとも俺は愛、お前の笑顔に救われてるんだよ。』


「原田さん……。」


『だから一人で抱え込むな。何かあれば俺を頼れ。』


「……ありがとうございます。」


それから俺は幾度と愛の部屋を訪ねるようになった。


いろんな話をした。


一度、なんで人前で泣き顔を見せねぇのか聞いた。


「お祖父様が“お前の笑顔は幸せを与えるんだよ、だから泣き顔を見せちゃいけないよ”そう言ったんです。」


そうだな、愛の笑顔を見れば皆、安心するって言ってたっけな。


「だから泣くと周りも悲しくなるし、皆さんには幸せになって欲しいんです。」


そう笑顔で言う愛を見て


『そうか、幸せか…確かにそうだな。』


俺はこの笑顔を守りてぇ。


いつ、居なくなるかわからない愛を、今だけは…アイツの傍にいてやりてぇ。


この感情がなんだかわかっているんだが…


『俺もいつの間にか臆病者になっちまったみてぇだな。―――クスッ』


あれから数ヶ月。


今宵の月は不気味な位でけぇ。


何か嫌な予感がして巡察を急いで終わらせ屯所に帰った。


土方さんに報告を済ませ、部屋に戻ろうと歩いていたら月を見上げ泣いている愛が居た。


月明かりを浴びている愛はとても綺麗で何故かそこから消えてしまうのではないかと思ってしまい、俺は引き止めるように愛を抱きしめた。


「……原田さん、」


『いつも言ってんだろ?一人で抱え込むなって。』


そう言いながら、さっきより強く愛を抱きしめた。


俺を頼っちゃくれねぇのか?


「いつもすいません。」


『俺が好きでやってんだ。気にすんな。』


そう、俺はお前の支えになりてぇだけなんだ。


ただお前の、愛の為に何かしてやりてぇ、そう思い愛を見る。


心なしか頬が赤くなっている。


少しは期待してもいいのか?と考えていると


「原田さん、もう大丈夫ですよ。」


そう言って俺から離れようとする愛を腕に閉じ込め、


『愛……、俺はお前の不安を取り除けてるか?』


と訪ねてみた。


愛の口から直接聞きたかった。


お前を支えれているかを。


「はい、原田さんの気遣いにはいつも感謝してます。」


気遣いか…


『……そうか。』


気遣いなんかじゃねぇんだ。


俺はお前が、愛が――


でも、伝える事が出来ねぇ俺に


「ありがとうございます。」


と言い、俺から離れた愛。


『夜は寒い、体が冷えねぇ内に早く部屋に戻って寝ろよ。なんなら、添い寝でもしてあっためてやろうか?』


「クスクス。冗談はやめてくださいよ、原田さんも早く寝てくださいね。」


そう言いながら軽くお辞儀をして、愛は部屋に入った。


『冗談じゃねぇよ……。』


そう呟いて部屋に帰った。


俺は愛が好きだ。


でも、いつ戻ってしまうかわからないアイツを俺は引き止める資格があるのかわからねぇ。


だから、この気持ちはまだ言えねぇ。


今はアイツを、愛を守りたい。


そう胸に決め、布団に入った。










=あとがき=
原田sideいかがでしたでしょうか?
切なくしすぎましたかね(-.-;)

愛様、最後まで読んで頂きありがとうございました♪
2012.5.30

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