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毎年、見た目に反して手先の器用なクルーが必ず何人かいて、この時期になるとレッドフォース号は丹念に飾り付けがされる。 今年も例にたがわず、黄色く色づいたカボチャのランプが数え切れないほどに飾られ、闇夜に浮かぶ海賊船を幻想的に照らし上げていた。 赤髪海賊団では、『仮装していない奴は船を降りろ』という船長命令のもと、太陽が頭の上にあるうちから、大いにハロウィンのお祭り騒ぎを楽しんでいた。 日付が変わるころになっても当然宴は続いている。しかし、目下の関心事であった古代文明の研究がちょうど一段落していたベックマンは、連日の睡眠不足を補おうと、喧騒にまぎれて早めに席を立ったのだった。 扉が開く微かな気配は、彼の意識を浮上させるには十分だった。気配だけで、彼には侵入者が誰かわかっていた。例えわからなかったとしても、こんな時間にこんな風に彼の部屋に入ってくるような神経の人間は、九十九パーセント以上の確率で一人しかいない。 だから腹の上に慣れた重さが乗ってきたときも、ベックマンは目を閉じたまま、放っておいてくれという態度を全身で表していた。 「トリックオア、……トリック」 「……トリートだ」 突っ込みを入れるのは習慣になっている。思わず訂正してしまい、観念して目を開けると、面白がるような表情が彼を待ち受けていた。 「それくらい知ってる」 「そうか。そりゃ良かった」 一応、返事はしてやったのだ。務めは果たしたと、ベックマンは再び目を閉じようとした。 「適当にあしらって寝るつもりだろ」 さすがに長い付き合いだ。ベックマンにわかるように、シャンクスにも彼のことはわかっているらしい。ごまかすように口を開いた。 「……トリートはいらないのか」 「脅せば手に入るものには、興味がないんだ。奪って手に入れるのが好きだ」 「性悪だな」 「海賊だぜ」 「なるほど。わかったから、よそでやってくれ」 「あっ、おい、寝るな」 顔にかかる髪を掻き上げ、ベックマンはため息をついて目を閉じた。 「……おれは寝る」 ベックマンは腹の上のシャンクスを無視し、横に寝返りをうって腕組みした。寝心地のいい、いつもの姿勢だ。すぐに妨害されるのは覚悟の上で、何をされようと起きるつもりはないと決意を固める。 すると喉元に羽のようなものが柔らかく触れた。心地よい重さと体温が覆いかぶさってくる。首筋を滑らかな髪の冷たい感触が撫で、夕霧のような香りが彼を包んだ。あらがい難い誘惑だった。 胸元に入り込んできた体温を抱きしめようとしたとき、すごい力でその腕が押さえつけられた。不意を突かれ、抗議の声を上げようとした寸前、首筋に鋭い痛みが走った。ベックマンは低く呻いた。 彼の首に噛み付いたまま、シャンクスが発情期の猫のように甘ったるく体を摺り寄せてくる。溢れはじめた血を、繊細な舌が丁寧に舐めとった。美味そうに喉を鳴らす音がする。 空いている方の腕を、ベックマンはシャンクスの背に滑らせた。シャツの下に入り込んできた手の冷たさに、彼の身体が一瞬こわばり、ベックマンは少しためらった。しかしすぐにシャンクスが誘うような吐息を漏らしたので、ベックマンはちょっと笑ってもう一度彼の身体に触れた。 猛獣を慣らすように気持ちの良い場所を愛撫し、少しずつ弱いところを掠めるようにすると、次第にシャンクスの身体が溶けてきた。 腰を抱き込むとまだ抵抗があった。力づくで押さえつけ、身体の下敷きにして体重をかけると、ようやく目の覚めるようなグリーンの瞳と視線が合った。 ベックマンの姿を瞳にとらえたまま、口元についた彼の血を舐め、シャンクスが低く囁いた。 「……おれと遊ぶ気になっただろ」 唇に噛み付くと、自分の血の味がした。乱暴にシャツを暴き、もがきだす身体を押さえこんで獰猛なキスを繰り返すと、身体中をアドレナリンが駆け巡る。さらさらと気持ちのいい赤い髪を鼻先でかき分け、彼の香りを胸に吸い込んだ。 「……バンパイアは仮装までにしてくれ」 シャンクスの機嫌のよさそうな笑い声が、耳元でした。そしてねだられるまま、脈打つ喉にそっと唇を落とした。 |