fortress around my heart 4







 一隻の船が水平線に姿を現したのは、海が赤く染まる夕暮れだった。シャンクスが立ち上がって両手を振ると、甲板から飛び降りたヤソップが水をはね上げながら浅瀬を走ってきた。

「シャンクス! 心配かけやがって!」
「ヤソップ!」

 彼を乱暴に抱き締めたあと、両肩を掴んで確かめるように全身を見降ろした。

「無事か?」

 シャンクスははじけるような笑顔になった。

「ああ!」

 碇を降ろす作業を終えたクルーたちが、次々と飛沫をはね上げて駆け寄ってくる。

「シャンクス、生きてたか!」
「気が気じゃねえよ!」
「死んだかと思ったぜ!」

 頭を撫でたり背中を叩いたりする手の間から、シャンクスは少し離れて見守るベックマンに気付き、誇らしげに彼の猟銃を掲げて見せた。

「ベック! ほら、銃は無事だぜ」

 ベックマンはしかし、いったん口を開いたものの、険しい表情で黙り込んだ。

「どうした? 顔怖ぇぞ」
「……何を考えてるんだ」

 シャンクスは首をかしげた。

「あんたは馬鹿か」

 厳しく響いた言葉に、それまで無邪気に喜びを分かち合っていたクルーたが黙り込んだ。静まり返り、打ち寄せる波の音だけが少年たちの間に響いた。

「あの海に飛び込むなんて狂気の沙汰だ。これだけの人間に責任を負っていながら、あんたに船長の自覚はないのか。あんたが死んだらおれたちはどうなる」
「でも、お前の大事な」
「頼んだ覚えはねえ。おれたちはあんたの言葉を信じてついてきてるんだ。信頼されたいなら、こんな馬鹿げた真似は止めろ。自分の責任の重さの自覚もない、浅はかな船長には誰もついて行かなくなる」
「おれは生きてたじゃねえか」
「運が良かっただけだ」

 シャンクスは口を開いた。しかし言葉が出てこなかった。心のどこかですでに自分の間違いに気付き、ベックマンの忠告が痛いほどわかっていた。しかし彼は納得できなかった。

 船長だから、みんなの大事なものは、自分が守らなくてはいけないと思った。 ロジャーが、自分にしてくれたように……。

 クルーは何より大切なものだったから、彼らが愛するものが何より大事だった。ベックマンが大切にしているものだったから、それを守るためなら嵐の海にだって飛び込めた。

 でも彼はシャンクスと一緒にはこれないという。
 シャンクスは頭が破裂しそうだった。何も考えられなかった。ちゃんと考えたら涙があふれそうだった。

「……ついて行けねえって何だ」
「言葉通りの意味だ」
「おれと一緒に来ないって意味か」
「自覚しろと言ってるんだ」
「だってお前、銃がなかったら困るだろ!」

 シャンクスの必死の剣幕に、ベックマンがため息をついた。そして呆れたようにかすかに首を振った。彼が視線をそらしたことが、シャンクスを一番傷つけた。

「おれは、あんたの命とたかが銃一丁の重さを比べるつもりはない。おれたちはあんたに運命を託してるんだ。少しは自覚を持って行動したらどうだ。こんなところでつまらねぇ死に方されちゃ困る」
「……」

 シャンクスは唇をかみしめた。口を開いたら、とんでもなく子供じみた言葉が飛び出してきそうで、両手を握りしめているしかなかった。シャンクスが黙っていると、ベックマンが叱責するような、しかしいつものように落ち着いた黒い瞳を彼に向けた。

「船長の命と、たかが銃一丁を天秤にかけるなんて馬鹿げている。……間違ってるのは、どっちだ? おれか、あんたか? 言ってみろ」

 シャンクスには限界だった。

「……!」
「……なんだ」
「ベックの馬鹿が、悪ィんだっ!!」

 そう叫び、彼の胸に猟銃を叩きつけた瞬間、胸に鋭い激痛が走った。地面が揺れて、空が回転した。
 そして彼は、意識を失った。


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