fortress around my heart 3







 痛みを心地好さとして感じることがある。身体中をめぐる痺れで、指一本動かせないとなると、もう何もしようがない。全身を挽き臼にでもかけられてしまったかのようだ。
 しようがないのだから、休んでもいいのだと思い切れる。
 海のリズムは鼓動に似ている。いつの間にか自分の心音が重なっているのがわかる。


 身体の下には地面があった。頬に温かさを覚えて、次に目蓋の裏に光を感じた。耳元には、馴染んだ打ち寄せる波の音、くすぐったく濡れた気配がする。

 いつものようにバネの効いた腹筋で起き上がろうとすると、胸の下に刺すような痛みを感じて、シャンクスは再び砂の上に仰向けになった。
 激痛の走ったあばら骨を探ってみるが、どうやら傷口はないようだ。息を吸う度に骨の隙間からナイフを差し込まれているような鋭痛が走る。覚えのある痛み、おそらくヒビが入ったのだろう。それに右腕に海水が染みるから、そちらはきっと出血している。
 傷を負ったら痛いのは生きている証拠だ。

 生きている。

 太陽の位置と空の様子からするとまだ昼間で、ここはおそらく夏島だ。冬島でないのは幸いだった。砂浜でさざ波にのんびり浸かっていても凍死することはない。

 右腕の傷口を確かめようと腕を上げると、自分が何かをしっかりと掴んでいたことに気が付いた。シャンクスは声を出して笑った。ベックマンの猟銃だ。
 良かった。

 痛むあばらを気遣いながら身体を起こすと、通り抜ける風が少し冷たかった。
 つまり、自分は難破したのだ。この名前さえわからない浜に一人きり。

 でも心配はいらない。ここで待っていれば、ベックマンが海流を読んで計算をして、ヤソップやルウたちと船をここまで運んでくれる。
 大丈夫だ。みんなが迎えに来てくれる。

 当然のようにそう考えた自分に、シャンクスは気付いた。愕然とした。

 一人きりなのは、珍しいことじゃなかったはずだ。誰にも頼らないでやってきた。ロジャーたちと離れてから今までずっと自分の力で生き抜いてきて、それだけの能力と経験が彼にはあった。孤独なんて感じないくらい強い心を持っていた。どんなに辛い目に会っても泣いたり音を上げたりはしなかった。

 でも今、あっけないほど簡単に涙が溢れた。

 これ以上前に進めないと思ったことは数えきれなかった。そのたびに、胸に響く警鐘を無視して足を踏み出してきた。一日一日を生き抜くために、そうするほかはなかった。
 立ち止まり、振りかえると、月日の流れるのは驚くほど早い。

 ロジャーの船を降りてから知ったのは、孤独と、屈辱と、絶望。いったい自分はどうやって、ここまできたのだろう。どうやって、あんなひどい経験を乗り越えてきたのだろう?

 そして再び、彼は仲間を頼っていた。まるでロジャーが生きていた頃、懐かしいあのオーロ・ジャクソンに乗っていた頃のように。当り前の日常の中にみんながいたあの頃。
 堰を切ったように、涙が止まらなかった。

 心細かったのだ。本当はずっと。

 瑠璃色に光る海の前で、放心したように、シャンクスは涙を拭うことすら忘れていた。
 名前もわからない無人島なのに、不安も焦りも不思議となくて、震えだしそうなほどに幸福な、満たされた心のまま、シャンクスは白い砂浜に一人で海を見つめていた。





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