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FILE.10 13TH JULY AM00:46 ACE: ALL'S WELL THAT ENDS WELL モーセの十戒みてえに、集まっていた群衆が気持ちいいくらいすっぱりと、二手にわかれた。 赤髪が、面白そうににやにやとおれの反応を見ていたが、おれはそんなこと気にしちゃいられなかった。 「オヤジ!」 群衆を割って、白づくめの大男が現れた。立派な白いひげ、堂々とした見上げるほどの体躯を上等のブランドもののスーツで包んでいる。 おれを見て、この街の伝説、エドワード・ニューゲートが笑った。 「待ってな、エース」 赤髪が片手を広げた。 「活きのいい若い衆だな」 「おれの息子を返してもらおう」 「呼んだ覚えはねぇなあ。こっちも楽しんだが」 「そんなこたぁ、聞いちゃいねえよ」 「黒ひげが仕向けたんだ」 「お前に言われんでもわかってるぜ、小僧。始末はつけた」 「そうか。結構だ」 「手間とらせたな」 「構わねぇさ」 赤髪がおれの頭をこづいた。 「いつでも来い」 おれはあまりの成り行きに言葉を失っていた。呆然とまばたきをしていると、腕を引かれ、カジノテーブルから引きずり降ろされた。サッチだった。「心配させんな、末っ子」とか、煙草をくわえた口で言いながら、やつは赤髪に向かって片手を上げ、おどけた敬礼のような仕草をした。赤髪が笑い、肩をすくめてサングラスをかけた。 混乱した頭ながら、おれはゴッドファーザーのお叱りを覚悟した。どうやら黒ひげはしたたかな裏切り者だったらしく、おれはホイホイとやつの罠にはまったらしく、危うくモビー・ディックとレッドフォースという二大勢力の関係に決定的なヒビを入れちまうところだったらしい。 あまりの不名誉に顔を上げられなかった。半ば引きずられるような形でオヤジの隣に戻ると、白ひげはいつもの豪快な笑い声を響かせ、おれの頭に馬鹿でかい手をおいた。 びっくりして顔を上げたときには、オヤジの広い背中と、機嫌の良さそうな笑い声があるだけだった。呆然とつったっていると頭を一つ叩かれた。マルコだった。何も言わずに通りすぎていった。 おれは唇を噛みしめた。 悔しいとかではなかった。 こんなときにニヤけたら不謹慎だと思ったのだ。でも何だか胸のあたりがくすぐったく温かくて、笑みをこらえるのが難しかった。 古株たちの後に従いながら、おれはこっそり後ろを振り向いた。 赤髪が黒いグラスの下から、あの印象的な緑の目でおれたちを静かに見送っていた。 おれはとうとう上機嫌の笑いをもらした。 「……また、遊んでくれよ」 「可愛がってやる」 中指を立てる代わりに、おれは軽快なステップを踏んで帽子を取ると、ダンサーがするように優雅な身振りでお辞儀してみせた。 赤髪のシャンクスの笑い声が、快い響きでホールを満たした。 |