renegade 8 |
FILE.8 13TH JULY AM00:23 ACE: PAPA DON'T PREACH こんな美しい色は、どの宝石商にも見せられたことがなかった。もしこれと同じのを売り付けられてたら、おれは有り金はたいてでも自分のものにしていただろう。 背中にカジノテーブルの柔らかいベルベットを感じながら、彼のしっかりした腰に脚を絡めて、娼婦がねだるように引き寄せた。エメラルドの豪華な瞳が少し驚いたように見開かれている。 首元を押さえていた握力が緩んだ。 彼の上等な革のジャケットを掴んで引くと、赤髪は逆らわずに身をかがめてきた。おれは首を伸ばしてキスをねだった。 赤髪が柔らかく笑った。 ほとんど殺気立ったようなキスに、細胞が沸騰するくらい興奮した。すぐに全身で押さえこまれる。圧倒的な存在感だ。オヤジと同じで、威圧感が肌にビリビリくる。 ライオンに食われてる獲物はこんな感覚なんだと思った。でもそうだとしたら、哀れな犠牲者も殺される瞬間はきっと、どんな絶頂にも勝るオーガズムだろう。恍惚となって死ぬのなら、真の王者の血肉になるのなら、そう悪くない話だ。 赤髪が強引に腰を押し付けてきた。身体中から力が抜ける。奪われている感覚に快感を覚えるなんて、おれはもしかしてマゾなのか? 彼の唇が首元を滑った。おれの身体はほとんど震え出している。滑らかな歯が動脈の上をゆっくりと滑った。一番の弱点をやつに差し出してると思うとぞくぞくした。 右手を太もものホルターに滑らせた。よく研いだナイフを銃と一緒に装備している。赤髪の耳にキスをしながら、ナイフを持つ手をそっと彼の襟元に押し当てた。 腹に冷たい銃口があたっていた。おれは舌打ちをした。 「……あんたのおっ勃てたのじゃなくて残念だな」 おれがやつの首を切り裂く前に、やつはおれの腹を撃ち抜いているだろう。 やつは答えずにちょっと口元を上げた。嫌気がするくらい様になる。 おれは潔くナイフを捨てた。甲高い音を立ててベルベットのテーブルに突き刺さった。プランBも上手くいかないとなると、正直やつとの格の違いを見た気になって辟易する。 と突然、彼の手がおれの首を鷲掴みにした。息ができなくなったと思った瞬間、頭を叩きつけられて瞼の裏に火花が飛んだ。 FILE.9 |