renegade 2







FILE.2
19th JULY PM22:18
ACE: I BRING A FIRE


 だからオヤジが赤髪を打ち取って来いと言ったのなら、おれは迷わない。

 ティーチを介して指示が出た。やつはJOHN POWER & SONのボトルを打ちぬき、その銃をおれに渡した。赤髪の故郷のウィスキーだ。ちょっと抜けたいつもの笑顔で、「びびってんなら断れ、命は大事だ」と言いやがったが、おれは笑って小型のマシンガンを2丁受け取った。オヤジのマークが入った、ファミリーだけが持つことを許される代物だった。

 ビビるだと? オヤジからの頼まれごとだ。嬉しい以外の感情はねえよ。



 それが1週間前の話。

 それからおれはトム&ジェリーみてえに、とにかくやつを付け回してる。

 赤髪の縄張りをうろつくのはすごく危険だ。奴らの故郷はいつも重い雲がたれ込めていると聞くが、一瞬で豪雨になったり嘘みてえに晴れ上がったりするのは奴らの気質もいっしょだ。気が抜けない。テンガロンハットを目深にかぶった。おれも一応、スペード・エースとして名が売れてるから、ばれたら事がでかくなる。それは得策じゃない。

 でも本当は、赤髪のやつもおれに気付いていると、おれの方もわかってる。いつもあの優男にべったりの、背の高い渋い白髪とは、やつのサングラス越しに何度か目があったが、あの男も何を考えているんだかにやにや笑って煙草をくわえただけだった。MITだかMIBだか知らねえ、天才だって噂だが、どうやら本物らしい。

 見透かされてる感じがしたが、別に悪い気はしなかったのは、おれ自身いつの間にかあの男を認めていたからなんだろう。赤髪じゃなかったら、誰かの下に治まってる男じゃない。

 でも何よりその赤髪だった。あんなに目立つ男はいない。教会で見る天使の絵にはよく後光がついていたが、あの男はそんなもんじゃない。日の目を見ない、裏社会に生きる男のくせに、あの男は太陽を着てるみたいに周りを圧倒した。

 たぶんそして、あいつは面白がっている。

 おれたちは一度だって面と向き合ったことがない。まして口をきいたこともない。でもおれが物心ついた頃には、赤髪はオヤジと同じくらいの影響力を持ってこの街に君臨していたし、ティーンエイジャーになるとおれもすぐに名が売れた。ポートガス・D・エース、スペード・エースと聞けば、だいたいの男はおれに向かって振り上げたこぶしを納め、その代わりに愛想笑いでジョッキを掲げたものだ。20にもならないガキ相手になにやってやがる。



 とにかく、赤髪はこの事態を楽しんでる。たぶんそういう奴だ。きっとおれと同じ人種だから、なんとなくわかる。ジャックナイフって呼ばれてるこのエースのカードを、やつが見過ごすはずはない。

 いつどうやっておれが狙いに来るか、こんな面白いゲームはそうそうないんだ。

 そりゃそうさ。ポートガス・D・エースなら、かの赤髪様の余興にも不足はねえだろう?

 暇つぶしくらいにはなるつもりだぜ。狙ってるのは大穴だけどよ。やつが楽しんでるとしたら、こっちだって負けないくらい極上のスリルを味わってるんだ。

 背の高い二人の男が、ガードたちにつき従われながら、地下のカジノに入っていった。白髪が弄んでいたスチールボトルを、隣の赤髪が手を伸ばし、当たり前のように横取りした。ウィスキーを煽り、後に続いた白髪に慣れた様子で押し付けて返した。
 ナンバー2の白髪は、部下として服従したというよりは、兄のような大らかさでやんちゃを容認したという感じだった。

 このカジノはいわゆるVIPしか入れない店だが、赤髪の持ち物でもある。それはつまり、このあたり一帯、カジノからスチールボトルのウイスキーまで、あらゆるものがこの男に属してるってことだ。見回りをかねて楽しみに来たというところだろう。おれは渇いた唇をなめた。

 お前がこの街の王者なんだろう。見てろ。喉ぶえに牙をたててやる。
 カードは切られた。ゲームの始まりだ。



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