we belong to the sea 2






 あの時、シャンクスはまだ十七になったばかりだった。自分より先に、彼の年齢が思い浮かぶことに、ベックマンは少し笑った。
 出会ったばかりで、まだ彼はシャンクスが自分の上に立つ器か量りかねていた。大抵の人間ならば、ベックマンは数時間一緒に過ごしただけで、彼らの言葉の選び方や視線の動きで底が知れた。しかしこの少年は、常に彼の想定を裏切る突飛な行動ばかりするのだ。そんな相手は初めてだった。

 新月の晩だった。彼らは追われていた。二手に別れたので、シャンクスとベックマンが一緒だった。

 敵は当時上り竜と見なされていた海賊で、ベックマンの予測からすれば、駆け出しの赤髪海賊団にほぼ勝算はなかった。敵は高額懸賞首ぞろい、あの白ひげに挑んだという情報もあり、負けはしたものの命があるまま逃げ延びた強者だった。
 彼らは見境なく村を襲い、海賊でもない人間を殺していた。

 戦闘の決断に反対はしなかったものの、シャンクスが逃げずに戦うと言い切ったとき、彼はひそかに狂気の沙汰だと思っていた。正義感だけで実力の違う相手に勝てるほど、海は甘くはない。

 今、シャンクスは無言だった。日暮れに辛くも追撃を逃れてから、ほとんど一言も喋っていない。村の小さな倉庫で、息を殺して敵を待ち伏せている。ここにきてようやくこの向う見ずな少年も、自分の行動の無謀さに気付いたのかとベックマンは考えた。

 無理もない。常識的な人間ならそろそろ神に祈りだしてもいいような窮地なのだ。ベックマン自身は落ち着いていた。今更怯えずに生き延びる手段を模索するくらいの経験は積んでいた。

 しかしこの少年も、ほぼ助かる見込みのない状況にやっと気付いたのだ。突然死が現実味を持って迫ってきて、恐怖に青ざめているのだろう。過度の緊張に頭が真っ白になっているに違いない。初めて戦場に出た兵士によくある生理反応だった。
 しかしここは、生き延びなければならなかった。

 宥める一言をかけようと、ベックマンは身をかがめ、シャンクスがひそむ闇に目を凝らした。
 しかし彼は間違っていた。


 暗がりで、シャンクスのしなやかな身体が敏捷な猫のようにはりつめた。大きな瞳がぎらぎらと底光りする。そこには確かに狂気的と言える色があった。
 彼はベックマンがいることには全く注意を払っていなかった。全神経を敵の気配に集中させていた。

 ドアノブをじっと見据えたままぴたりと動かず、高ぶる興奮をおさえこむように、柔らかそうな唇をそっと舐めた。まだ薄い胸の中で早鐘を打つ鼓動が、今にも聞こえそうなほどだった。

 シャンクスが本当に、敵の攻撃を今か今かと待ち望んでいることに気付いて、ベックマンは舌をまいてしまった。

 怯えや緊張などではないのだ。それは血が沸き立つような興奮だった。恐怖と絶望が支配するはりつめた空間で、生き延びられそうにないことなど少しも頭にないようだった。
 彼はただ自分の腕を発揮することだけを期待していた。
 まだ育ちきらない身体をして、一体どれだけの修羅場をくぐりぬけたら、こんな少年になるのだろう?

 身も凍るような悲鳴と爆発音を聞きながら、幼さの残る顔で彼が考える唯一のことは、自らの命を出来る限り高く売り付ける最良の方法なのだ。

 ベックマンは心底感服した。
 こんな少年がいるなら、生きてみるのも価値がありそうだった。この頭脳も命さえも彼のために使ってみたいと思った。
 彼が語る夢の行方を確かめる前に、死なせていい男ではなかった。
 シャンクスの武器としての一生なら生きる価値もあるだろう。



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