prelude






 二十になる前に、生きていくことがどういうことなのか理解できた。彼は常に十歩も先を見ていると人は言ったが、実際にそうだとしたら、わざわざ生きてその『十歩先』の結末を確かめる必要があるだろうか。
 彼の興味を持続させる価値のあるものは少なかった。多少の時間をかけて対象物を観察すれば、この先どうなるか過程と結果は予想できた。そして彼の予想が外れたことは今までになかった。

 先の予測ができないのは、砂浜に寄せて返す波の形くらいだ。だから海が好きだった。

 穏やかな海風が彼の頬を撫でていった。
 瑠璃を敷き詰めたような青を背に、絹糸に似た細い赤毛が、風に揺れていた。見かけたことのない小さな船が砂浜に寄せられている。シトラスが花盛りを迎え、海沿いの丘からふくよかな香りを届けていた。

 柔らかそうな赤い髪が太陽に光り、ベックマンは思わず額に手をかざした。少年が振り向いた。彼に気付いたのだ。
 まるで古い友人に会ったかのように、心でそれとわかるより先に微笑しているあの一瞬のように、少年の表情が緩んだ。

 太陽に透ける優しいエメラルド色の瞳が、その瞬間彼の心に鎖をかけた。



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