holiday 2







 シャンクスの背中を見るのが好きだった。正面から眺めるのは本当は緊張する。だって彼と目が合ったら、どうしたらいい?

 フライパンを動かすたびに、Tシャツの下で彼の無駄のない筋肉が動くのがわかった。自分があの年になったら、彼のようなスタイルを保ってられるかと少し考えたが、すぐに飽きた。

 抱きつくと、シャンクスが少し笑って、逆に体重をかけるように寄りかかってきた。驚いた様子はない。エースも彼が驚くとは思っていなかった。

「匂いにつられて寄ってきたのか」

 エースが彼の首筋にキスをした。

「あんたと結婚したい」
「出直してこい」

 エースが笑って彼の肩に顎をのせた。

「シャンクス、『焼きました出来ました系』の料理上手いよな」
「それ褒めてねえだろ」
「褒めてるさ」
「どうでもいいな。ほら、暇だったらサラダでも作ってろ」

 エースはしぶしぶシャンクスから離れ、冷蔵庫からレタスを捜し当てた。彼も普段料理はするが、どうも手つきが武骨になる。シャンクスのようにいかにも男の手料理っぽくはならないのだ。レタスをちぎって皿に盛る手つきは、野戦料理かキャンプ場を思わせた。

 黒胡椒を削ってオリーブオイルとバルサミコをかけている間に、シャンクスの方はトーストまで準備を終えていた。エースは席につくなり、大盛りのスクランブルエッグに手を伸ばした。

「美味い」
「だろ」
「チーズが入ってんのが好き」
「良かったな」

 二人ともあまり喋らなかった。寝起きからハイテンションになれる方ではないのだ。シャンクスが新聞に目を落とした。休日なのでたいした発表はないだろうが、ビジネスをやっている身としての習慣だ。

「寝るなよ、エース」
「寝ねえよ」

 やっぱり興味を引く記事もこれといった企業情報もなく、シャンクスは顔を上げた。それにもし万が一見落としがあっても、サブのベックマンがいる限りは大丈夫だ。

 トーストに塗るバターに手を伸ばしたシャンクスは、いちごジャムを手に取ったエースを見て顔をしかめた。

 エースが持っているトーストには、すでにピーナッツバターがたっぷりと塗られている。

 しかし彼は、スプーンに大盛りのいちごジャムを、さも当然のようにがつんと投下した。そして目を見張るシャンクスの前で、分厚いピーナッツバターといちごジャムのトーストを頬張った。眠たい顔のまま、それでも幸せそうにもしゃもしゃとやっている。

「……美味いか」

 シャンクスが少し引いたまま聞くと、エースはうっとりした顔でうなずいた。眠いのかもしれない。

 予想をはるかにこえた食べ方だが、本人が幸せならいいだろう。シャンクスはベックマンが選んだ低脂肪の上質なバターを手に取った。彼自信は気にしたことはなかったが、ベックマンが自分のついでにいろいろと体型管理をしてくれる。

 年下の恋人を横目で伺うと、信じがたいことにすでに一枚目を食べ終え、二枚目に手を伸ばしていた。シャンクスは思わず時計の秒針を確認した。

「……燃費が悪いな、お前」
「ん?」
「それだけ食べても太らねえもんな」
「おれ動くし、若いし」
「ルウみてえになるぞ」
「なるかな。そういえば、サッチが一度飲みたいって」
「誰だサッチって」
「おれがフラットシェアしてる……」
「ああ、パイナップルの頭のな」
「そりゃマルコだ」
「ストレイキャッツみてえなリーゼントの方か」
「そんなかっこ良いもんじゃねえけどよ、あいつは」
「じゃあ今日飲むか?」

 ベーコンを口に運ぶ手をとめ、エースが複雑そうな顔をした。

「どうした」
「……いいんだけどよ。やなんだよな」
「?」
「いやな予感がする」
「いいから電話してみろ。面白ぇじゃねえか」
「……わかったよ」

 ろくなことにならねぇよ、とぼやきつつ、エースが携帯を取り出した。

「ああ、サッチ? おれ」

 休日の朝なのに、電話の向こうはまずまずなテンションで出迎えたようだった。エースは携帯をちょっと耳から離した。

「……そんなこと、どうだっていいけどよ、今夜8時に『ワンピース』に来れねえ?」

 サッチがいつもに増して大きなリアクションを返した。先約が入っているのかもしれない。エースが少し顔をしかめ、シャンクスに目配せした。シャンクスが手を伸ばした。エースがため息をつく。

「あんたがサッチか?」

 突然代わられ、サッチがますます慌てたようだった。シャンクスは平然としていた。

「ああ、おれがシャンクスだ。なあ、今夜来いよ。え? そんなこといいじゃねえか……飲もうぜ、楽しそうだ。ハハ、そうだな。……わかった、後でな」

 シャンクスがエースに携帯を返した。エースがかすかにうらめしそうに、上目遣いに彼を伺った。

「……あんた本当、人にもの頼むの上手いよな」
「そうか?」
「ルフィみてぇ」
「そうか。褒めてんだろうな?」
「どうだかな」

 シャンクスがエースの骨張った首に手を伸ばし、そのまま引き寄せた。唇がゆっくり重なった。

「……甘い。よくこんなもの食えるな」

 エースが彼の腿に手を置き、体重をかけた。

「……ベッドに戻ろう」
「お疲れだ、おれは」
「シャンクス、たまの休みだろ」
「たまの休みは寝かせてくれ」
「オッサンくせえよ」
「生憎おれはオッサンだ」
「寝てていいから」
「……必死だな」

 シャンクスが吹き出した。エースが彼の瞳を覗き込んだ。

「出かけるの、夜からだろ……」

 シャンクスが苦笑した。諦めたように両手を開くのを見て、満足そうにエースが笑った。








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