let the sun shine on my face





 猫みたいだと、よくダダンに言われる。
 どこでも気を抜いたところでごろんと横になり、そのままのんびり寝てしまうからだ。
 暖かい日だまりの中でエースは目を覚ました。頬にあたる日差しに、ふわふわした意識ながらも自然と口元が緩んでしまう。優しい風が囁くように柔らかい髪を撫でていき、ここが屋外だったことを思い出した。真上を向いていられないほどに眩しい青空が広がっている。木々を揺らす風の音。
 洗濯物を取り込んでいたはずだったのだ。でも洗い立てのシーツは彼の身体の下にあった。どうやら小一時間前の自分は睡眠欲に負けたらしい。まあいいか、と欠伸をし、洗剤の匂いに頬をすり寄せた。それに混じって、若い青草の香りがほのかに彼を包む。
 腹の辺りが心地よく重かった。いつの間にか、見慣れた黒い髪が胸元にある。エースは小さな笑い声をたてた。
 猫が二匹とダダンが呆れるだろう。
 日向の匂いのする頭のてっぺんにキスをし、自分より小さな身体を抱きしめた。
 でもルフィが来る前までは、適当な場所で眠ってしまう癖などなかったのだ。そんな風に気を抜くことなんて考えられなかった。陽だまりで眠るようになったのは、ルフィがここに来たからだ。自分もずいぶん変わった。陽にあたることを知らなかった自分を、ルフィが救ってくれた。
 小さな唸り声が聞こえ、腕の中の身体が伸びをした。エースは力を抜いて滑らかな髪を撫でてやった。ルフィが眩しそうに顔を上げた。

「……昼飯?」

 エースが吹き出した。

「昼寝」
「飯がいい」
「食っただろ」
「そうだっけ?」

 エースが腕を広げて仰向けになった。身体を大の字にして伸びをする。閉じた目蓋の裏が日差しに白く焼けた。太陽は好きだ。しかしすぐにそれは陰った。そして唇に柔らかい感触がした。エースは目を眇めた。満面の笑みが目の前にある。

「……何してくれてんだ」
「キ……」
「真面目に答えんな」

 彼の頭のわきに手をついたままルフィが笑った。

「隙だらけなのがいけねぇんだ」

 このところルフィはやけにキスをしたがっている。まるで喜んで口元に飛び付こうとする子犬のようだ。最近は慣れてしまってあまり驚かない。キスがどういうものか彼が本当にわかっているのか、エースには疑わしかった。
 眩しい光のせいもあり、一見不機嫌そうに目を細くしたままエースはルフィの頬に手を伸ばした。少し前までまるっきり子供だった輪郭が、最近は少年らしい鋭さを帯びて来ている。なぜかそれがちょっと惜しくて、エースは柔らかい頬をつまんで引っ張った。こいういう時、ルフィは基本的に無頓着だ。平然とされるままになっている。ゴムゴムの実のせいでよく伸びるのを、弾くように離して笑った。

「……でかくなったよな」

 ルフィが不満そうな顔をした。

「でもまだエースより小せえぞ」
「いいんだよそれで」
「なんで」
「おれが兄ちゃんだから」

 いつまでたってもこの言葉が大好きだとエースは思う。おれがルフィの兄ちゃんだ。
 緩んでしまう顔のまま頬をなぞっていると、ルフィがぱっと笑った。

「そうだな」

 そう言ってもう一度キスしようと身体を屈めてきたので、エースは腕で軽く押し返した。しかしルフィがそれをつかんで芝生の上に押さえつけた。寝起きな上、暖かい日差しに肌を撫でられ、エースは本気で抵抗する気にならなかった。
 ルフィが噛み付いてきた。いつもと違って熱い舌が唇を割って入ってきたので、さすがにエースはびっくりした。目を開けると、ルフィが薄く自分を見下ろしていた。不覚にも背筋がぞくりとなる。獲物を見るような目だ。彼の舌が気持ちのいいところをかすめた。鼻にかかった息を漏らすと、ルフィがようやく唇を離した。少し荒く息をついて彼を見下ろした。

「……エース、どうだ?」

 伺うように真剣な顔で覗きこむ弟を、エースはしばし呆然と見つめた。無反応に固まった兄に首をかしげつつ、ルフィはじゃもう一回、と顔を近付けた。
 エースはようやく我に返った。そしてキスしてきた弟の肩を抱えると、細い身体を自分の下敷きにして思い切り舌を絡めた。
 大きな丸い目が彼を見上げていた。エースはにやっと笑った。

「気持ち良かったか? ルフィ」

 ルフィがハッとして悔しそうに顔をしかめた。

「エース! なんだ今の!」

 勝負に負けたときのような反応を見て、エースはひとまずほっとした。基本的にはまだ子供だ。じたばた暴れるのを押さえつけていると、家の中からダダンの声がした。

「おい、ガープから荷物が届いたぞ!」

 二人が同時に手を止めた。ルフィが起き上がるより一瞬早くエースが反応し、彼の下からシーツを引き抜いてルフィを芝生の上に転がした。洗濯籠をつかんで走り出す。

「いてぇ! エース、何すんだ!」
「早く来いよ、ルフィ」

 すぐに跳ね起きたのを目の端で確認して笑うと、エースは家の中に駆け込んだ。










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