somewhere i belong 2 |
目が覚めた。 慣れない匂いに包まれていた。でも悪くない。どこか懐かしい感じがする。本能が、警戒なんてしなくていいと告げている。 外は雨のようだ。暗闇に目が馴染んでくると、部屋の主はソファで眠っていた。長い足が窮屈そうにはみ出している。たしか自分がソファに寝ていたはずだったが、ベッドに運んでくれたのだろう。悪いことをしたと思ったが、前にも一度こんなことがあったので、今回はあまり驚かない。しっかりした枕に頬をすり寄せ、ベッドの温もりを噛みしめた。 マルコを怖がってる若いクルーは多い。でもおれはそんな風に感じたことはなかった。この人は厳しい。厳しい人間は好きだ。そして温かい。 だからこの部屋はいつも温かい。 雨音が鼓動のように優しかった。 この船には古い家と同じ匂いがある。どっしりした木材と、大勢が暮らす生活の気配。刻まれた時間。はじめて来た場所のはずなのに、ずっと昔から知っていたような気がする。 ここでは毎回ちゃんと食事が出る。奴らは笑いあってゆっくり食べるが、おれは味もわからないくらいに喉につめこむ。 当たり前のようにオヤジなんて呼んで、互いに笑ってるあの顔はどうだ。すっかり気を緩めて、安心仕切って上がる笑い声。 おれなんて少し風が吹いただけで身構える。ちょっとした物音にびくついて、まどろんでいても飛び起きる。 この船のクルーが、そんな様子を見て笑った。 『どうした、怖いものなんてないと言い切ってみせたくせに。今さら失うものなんてないと、吐き捨てたんじゃなかったか』 彼らの油断仕切った様子。ゆったりと食べて、暖かい寝床に寝転んで、手足をバラバラにして昼寝なんてしてる。 お前らにはわかるものか。 恐れるものなんて何もなかった。 何も持たずにいたあの頃は、失うものなんて何もなかった。 「……だから偉そうに言うなよ」 首をめぐらせて見ると、外は雨が降っている。 このベッドも、この部屋も、この船も、当たり前のように温かい。 なまじこんなところに連れて来られたから、きっと怖くなったんだ。 またあの冷たい海に放り出されたらどうしよう、 −−どうしようかって。 |