季節は秋になった。ダアトの街でも通りでは旬な食材などが並び朝早くだというのに賑わいを見せていた。
目的は違えど沢山の人々が笑顔で楽しそうな通りを私はゆっくりと店を冷やかしながら抜けていった。

私の目的はこの先を抜けた先、このダアトの街の象徴とも言えるローレライ教団のある教会だ。
今日、私がこうして教会を訪れる事も預言で詠まれていたのだろうか。そんな思考を抱きながら気持ちよく空を見上げた。
雲一つない青空にキラキラと輝く譜石が見えた。
綺麗だなぁ、なんて思いながら歩いていたら前に人が居るのも気付かずに思いっきりぶつかってしまった。

慌てて謝れば近所のおじさんで、笑いながらまたぼーっとしてたのか?気を付けてくれよー。と言われてしまった。
苦笑いをしてまた一つ謝り、そして気がついた。教会の前に付いていたのだと。



秋には水の国へと訪れそこで新たな出会いがあるでしょう。


これは昨年私の生誕の預言で詠まれた言葉である。
季節も訪れ来週にでも旅行へと行こうかと話していた。
そんな今日この頃旅行への不安やら楽しみやらで子供みたいに興奮した私の心は寝不足を引き起こし、そんな私を見兼ねた母から旅の無事を祈って貰いなさい、とやや強めに言われてしまった。
母はよくミサに行っていたし、前の導師様とは何回かお話をしていたのを見たことがあった。それはこの街では普通だし、むしろ世界中で当たり前の事である。
私はと言えば今は預言よりも遊びの方が大事だった。
そうやって平凡に楽しく生きていた。
将来は普通に好い人と結婚して母のように在宅で働きながら子供を育てる。みたいな感じで終わる人生だと何となしに生きていた。
今日もそんな軽い気持ちで居たのにだ。
今目の前にいる現導師様、イオン様はその綺麗で整ったお顔で微笑みながらとんでもないことをいい放った。その言葉に私は思わず聞き返してしまった。
微妙に合っていなかった視線がかち合って導師様はまた同じ言葉を紡いだ。

「·····ですから。旅行へ行くような預言はありませんよ。」



前に学校で習ったのは預言の事だ。預言は定められた世界の記憶。預言が変わるなどあり得ない話だと思っていた。
だがどうだろう私の今の状況。
確かに生誕の預言で水の国に行くーって言ってたよな?聞き間違い??そんな事を考えてはみたものの、さすがに導師様の詠んで下さった預言に文句を言えるわけもなく。
数日たった今日、溜め息をついて思い腰を上げて荷解きをはじめた。
にしてもあの導師様、見事な清々しい笑顔だった。結構楽しみにしていたのもあって今思い出すと悪態をつきたい気持ちである。
そんな私と違って母は預言に従っていたら幸せになれるからと言い聞かせてきた。母の事は別に嫌いじゃないが普通にウザいな、と感じてしまう程に私はまだまだ子供であったし、預言主義者でもなかった。

そんな私に待っていたのは客船の大事故と言うニュースだった。

自然災害であった。思いがけない嵐に捕まった客船は氷山へとぶつかり沈没した。生存者は限りなく少なく、その中には私の顔馴染みの人も居た。何より恐ろしいと思ったのはその客船は私が乗る筈だった船ということ。
母は預言のおかげで救われたと導師様に感謝していたが私はただ恐ろしかった。
もし、私が母に導師様に預言を貰いに行けと言われなかったら。生誕の預言通りに行っていたら。
そもそもあの船は沈没すると詠まれていたのだろうか?
自然災害は突然やってくる。誰にも分からずに。
じゃぁどこから預言でどこから違うのか。
真実はこんな私には分からない。私はなにも知らないただの一般人なのだと思い知らされた。
生きていると言うのに生きた心地がしなかった。
冷えた私の体を冬の風が通り抜けていった。ふと空を見上げれば相も変わらずに浮かんだ譜石がキラキラと輝いていた。
そんな譜石をあの日とは違う気持ちで眺めた。






この日を境に私に訪れたのは非日常だった。
これも預言なのか、はたまた誰かの陰謀か、それとも、ただの偶然なのか、今の私には知るよしもなかった。




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