「こんにちは」

「え?····え!」

職務を終えると少ないとは言え自由時間が与えられる。
私はあの日からその時間を図書館での勉強に当てた。
戦闘訓練は嫌でも業務にくみこまれているからだ。

何度目かの夜、今日も図書館に通った私は意外な人物に話しかけられた。


「ど····導師様···」

それは導師イオンであった。私をここに入隊させた張本人である。
多忙である導師様が一介の兵士に何の用だと言うのだろうか。

そんな思考もお見通しのように驚いた私に深い笑みで返し私の向かい側に座った。

「最近よくここに居るのを見掛けたものですからね」

ゆっくり、そしてハッキリとした口調で話すイオン様を私は未だに驚きながら見ていた。

「ど···うし様何故私の様な一介の兵士に」

「一介の兵士···ですか。」

私が問いかけた言葉にイオン様はふふ、と笑った。

「本当にそうですか?なまえ·みょうじ」

「私の事····知っているのですか」


あんな沢山の中から私を覚えている?···まさか····でも····
今まで思い当たらない節がないわけではない。
何かと目線が合ったり、図書館に居る時も視線を感じた事はあった。気のせいだと思っていたがどうやらそんな事はなかったのか。

そしてこの目の前の導師様は会話を重ねる毎に丁寧口調が取れてきている。
あの日冷めた目で私を見下したその人だった。


「預言のないお前を僕が導いてやったんだ。知ってるに決まってるじゃないか」

「な····なんの事ですか····」

いきなりとんでもない話をし出したイオン様に私は辺りを見渡した。
がいつの間に誰も居なくなっていた。ここに居るのは私と導師様。二人だけだった。
改めてイオン様に向き合う。

「人払いはしてるよ。それにしてもお前、本当に分からないの?バカじゃないだろ。」

「私に····預言がない···」

「そう。···何であの日以来生誕の預言が詠めなくなったと?」

「···········」

「何で軍に関係のないお前がいきなり信託の盾入隊の預言が詠まれた?」

「なんで、生誕の預言とは違う預言を言われた?」

イオン様の言う通りだった。
あの日、導師様に詠んで貰ってからと言うもの私は預言を詠めなくなった。
一回や二回ならまだしも三回、四回と重なった時これは偶然じゃないと気付いてしまった。だから避けてきた。

軍入隊の預言も導師様からの他の人とは違う視線も全部気付いていた。
でも認めたくなかった。それがどういう意味か知りたくなかったから


「お前は僕の手のひらで踊らされたんだよ。まぁ僕もここまで踊ってるくれるとは思わなかったけどね」

「あの日····私に旅行に行くなって言ったのは導師様の嘘····なんですね」

「そうだよ。」

「何故···そんな事を····」

「何故?ただの気紛れだよそんなの」

「気紛れ·····」

ただの雑談みたいに軽い感じにくれた答えに私はとても困惑した。
預言を順守するローレライ教団のトップが預言を"気紛れ"で蔑ろにしたのだから。
そんな私には目もくれずイオン様は淡々と答えていく。

「そもそもお前があそこで死ぬなんて僕も予想外だった。死の預言を詠むのは禁止されている知っているだろ」

「知っています····」

「····あの日のただの僕の気紛れでお前は救われた。絶対に外れないと言う預言をお前は覆したんだ」

「私が·····」

「そう、平凡で何も出来ないただの女が、ね」

自分で言った言葉に屈辱とでも言いたそうにイオン様は顔を歪めた。
私は純粋に怖かった。
導師様の事もそうだが私の置かれた状況。今まで見て見ぬ振りをしていた真実。
知らぬ間に体が震えていた。


「わ、私は·····」

何かをしていないと私が何の為にここにいるのか不安になった。
自分を誤魔化すように、考えないように努力した。
先の見えない未来に恐怖していた。

「ほら、お前は預言がないと恐怖で前に進めない。そんな弱い人間がさ。なんで?何でお前なんだよ」

ガシッと強く腕を握られた。
イオン様の腕は細くて色白なのにその力は強くてあまりの痛さに顔が歪んだ。

それを見て満足したのか荒く腕を離した。離された腕にはくっきりと赤い痕がついていた。

「····まぁいいさ。お前が死ぬのも生きるのも今となっては僕次第って事だ」

「え····」

「いいかい?お前は今から僕の特命を受ける。」

「特命····?私が···ですか?」

「そうさ。お前じゃないといけない。僕が救ってやったその命を持って。預言を覆したんだお前がこの僕を救うんだよ」

「私が····イオン様を」

救う?
さっきから一方的に進められていく話に付いていくのがやっとでバカみたいにおうむ返しをしている。

「ほら、これ」

そんな私にイオン様は一枚の紙を投げてきた。慌ててそれを拾って見てみたがおそらくは診断書の類いの物とは分かったが数値や文字などの意味はさっぱりだった。

「これは·····?」

「僕の体内音素数だよ。まぁ本当か嘘かも分からないけどね」

「え?····えぇ···っと?」

「見ても全然分からないと思うけどそれは正常じゃないんだよ。」

「え····イオン様····ご病気か何かなんですか····?」

「そうみたいだね」

「そうみたいって····」

そんな他人事みたいな····。

「····それと特命とどう関係が?」

「治せ」

「は」


私が医者でも治せないと言われた病気を治せと?

「そ、そんな!無理です!大体医療の知識すらないのにどうやって!」
「探せばいいだろ」
「そんな簡単に行かないですよ?!」
「黙れ、僕はお前を助けてやったんだぞ」

相当にキレてるのか今にも殺してやるぞと言わんばかりに殺気を放つ導師様に私は口を紡いだ。

「ごちゃごちゃ言ってないでやるんだよ。出来なきゃお前は預言通り死ぬだけだ」

「そ···そんな···」

「安心しなよ。その時は僕も死ぬ時だからね」

「え····??」

「いいか。明日からお前は導師からの特命で隊を離れて治療法を探す。部屋も用意するし知識として図書館の解放もする。医者と話す機会もやる。やれることは全部しろ。休むことは許さない、全力で取り組め。以上だ」

「ど、導師様···!」

言いたい事を言うだけ言って導師様は最後に私を一瞥して足早に図書館を出ていった。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -