(あーくそ、頭痛い・・・)
昼休み、詩音は保健室に向かってゆらゆらと歩いていた。
朝から続いている頭痛が、だんだん酷くなっている気がする。
体もだるくて、熱い。
「高杉せんせー・・・」
保健室のドアをからりと開けると、机に向かって仕事をしている高杉が目に入った。
「あ?詩音か、どうし・・・」
「せんせ、頭いたい・・・」
そこで、意識の糸はふつりと途切れた。
「んぅ・・・?」
気がつくと、保健室のベッドのなか。
いつの間にか運ばれていたらしい。
「目ェ覚めたか」
「あ、高杉せんせー。今何時?」
「5時」
あらら、授業終わってるじゃないか。
ラッキー。
「38.4℃も熱あって気づかねェなんて、お前らしいわ」
「えっ、そんなに熱あったの!?」
大きな声を出すと、頭がくらりとする。
「今日は絶対安静だ。ほら、帰んぞ。送ってやる」
「・・・うん」
「ほらよ、降りろ」
高杉に促されて車を降りる。
途端に足元がふらついて、不覚にも高杉に倒れこむ形になった。
「・・・チッ、しょうがあるめェ」
詩音の体がふわりと宙に浮いた。
高杉の顔が、近い。
「鍵貸せ」
鍵を渡すと、ガチャリという音とともにドアが開く。
高杉は迷わず詩音の部屋を見つけ出した。
「ほら、薬持ってきてやるから」
(手慣れてるな・・・)
ていうかあたしの部屋とか、なんでわかったんだろう。
暫くすると、高杉が戻ってきた。
ご丁寧に冷却シート(冷え●タというやつだ)まで持ってきてくれている。
「・・・せんせいって、エスパー?」
「は?」
「だってあたしの部屋も一発で当てるし、薬とかもすぐ持ってくるし」
「餓鬼の頃思い出しただけだ」
「ふーん」
会話をしながらも、高杉は詩音の額に冷却シート(しつこいようだが冷えピ●というアレだ)を貼りつけている。
「・・・つめたい」
「薬飲むぞ」
「苦いのいや」
「我が儘言ってんじゃねェ」
瞬間、高杉の顔がぐいっと近づいた。
あ、と思った時にはもう遅くて。
喉を薬が滑り落ちていく。
「・・・やっぱり苦い」
「良薬は口に苦ェんだよ」
口直しに甘いの頂戴、と言うと、ククッと笑われた。
「一丁前に、誘ってんのか」
そういう意味じゃない、と言おうとした唇を塞がれる。
煙草を吸うおかげで、高杉のキスはいつも少し苦い。
「っは、お菓子とかが欲しいって意味だったのに、この万年発情期」
「でもこっちの方が良かっただろ」
・・・反論できない自分が悔しい。
「俺ァ仕事に戻る」
高杉は満足気に笑ってそう言うと、じゃあなと部屋を出て行った。
奴のせいで熱は上がったに違いない、と考えながら、詩音は布団に潜りこんだ。
苦い熱
(この熱を知っているのはあたしだけだと)
(今だけ自惚れてみてもいいですか)
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