2メートル8センチ。それが奴の身長。ヒール履いてるとか段差に乗ってるとか、背伸びしてるとかそんなんじゃなし。正真正銘ヤツの本当の身長だ。

それに比べて私は女子の身長にギリ届くかな、いやギリ届かないかなというような普通のフツーの身長。ちなみに身長以外も普通平凡凡々の極みというくらい、とにかく奴に比べて普通なのである。


「あ、いた〜。」


間延びした声でそんな言葉を私にかける奴こそ噂のヤツ。身長2メートル8センチの紫原敦だ。相も変わらずの高身長。大きな背中を曲がらせて、お菓子をもさもさと食べながら歩いて来ている。
背中が曲がっている事で若干身長が低くなってはいるけれど、それでも身長はかなり高い。教室の扉をそのままくぐろうものなら頭を打つだろう高さだ。


「何しにきたの。」

「お菓子、ちょーだい。」


持ってない、と突っぱねれば、えぇ〜持ってるでしょ〜?なんて確信めいた口調で返してくる紫原。隣にのんびりと並んできた紫原の口元からぱらぱらと落ちてくるまいう棒のカスが頭にふりかかってくる。雪か。
てゆーかお菓子持ってるじゃないか…!
隣に並ぶ紫原はのんびりと歩いていて、私の方が明らかに歩数が多く、早いのに歩いている距離は同じでなんだかムカついた。…この足長め!羨ましい!


「お菓子のカスバラバラ落ちてきてるよ。」

「んーごめんねー。」

「謝るならまいう棒食べるのちょっとやめなさいよ。」

「えーじゃあさー。」


お菓子ちょーだい?そう言いながら、こてんと首を傾げる姿は大の男がやっているはずなのにすごく可愛い。…だから嫌いになれないんだ。こんなに身長差があっても、他にもいっぱいいっぱい差があっても。


「お菓子なんてないもん…」

「うそつきー」

「嘘つきじゃな…!」


すっぽり、開いた唇を閉ざすかのようにはめられたのはさっきまで紫原が食べていたはずのまいう棒。それが分かった瞬間にじわじわと顔が赤くなっていく。
そんな私なんてお構いなしに紫原は余裕のあるのんびりとした口調で、かてーか、ちょーりじっしゅーといちいち言葉を伸ばしながら叫び出して、周りの人の視線に堪えられなくなった私は慌ててまいう棒を口から外して、まーふぃーと言い出した紫原の口を塞いだ。ちなみに続く最後の音は「ん」だ。


「わかった!わかったから…!」


だらんと伸びたカーディガンのポケットからラッピングされたマフィン――ついさっき調理実習で作ったもので、味見をしていないからあまり自信はない…――を取り出して紫原のおなかあたりに押し付けた。
本当は胸あたりに押し付けたかったけど残念ながら高すぎた。


「分かってるじゃん。」


紫原はそう言って嬉しそうにペロリと舌を出す。この年でこんな仕種がサラリと許されてしまうのは紫原だけだろう。
嬉しそうにマフィンを頬張りながらゆるりと私の頭を撫でる紫原の手つきは、小さな子供のような事ばかりする紫原と同じようには思えない。

2メートル8センチの誰より子供のようで誰より大人な紫原敦という男に私は振り回されっぱなしだ。




しくは無いが不満じゃない

20120712
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