・黄瀬が笑顔でチャラい
・多分幸せではない



てのひらを開いて、大好きなあの人を自分の掌に乗せてみた。そういえば昔こんなプリクラがあった気がする。あの頃は可愛い背景に面白い仕組みで大人気だったのに、いつの間にか消えてしまった。
イマドキの女の子達は可愛い背景なんかより、1ミリでも目をぱっちり大きく見せてくれて、1ミリでも細く綺麗な身体にしてくれるプリクラを求めている。

プリクラに写るのは自分じゃないみたいな顔。目を見開いて、顎をひいて、女の子達はいつだって一生懸命だ。少しでも可愛くなりたくて、大好きな誰かさんに可愛いと言ってもらいたくて一生懸命だ。

掌にぴったり収まっているあの人が私の視線に気付いて、不思議そうに瞬きをした。私の方に向かって移動をはじめたあの人は、私の掌からすっかりはずれてしまって、私のてのひらには何もなくなった。
それがなんだかとてもつまらない事のように思えて、私は少しだけ唇を尖らせる。


「なーに変な顔してんスか。」


さっきまで彼が収まっていた掌の前にはピシリとしたブレザー。そのまま掌を伸ばしてブレザーをぐいと引っ張れば、彼はうわっと言って、少しだけぐらついて机に手をついた。


「ばか。」

「もー、今日はどうしたんスか?」


別に、と言えば彼は、冷たいっス!と言いながら、私の頬をつついた。今日肌触り悪くないかな、化粧水ちゃんとしたっけ。自然にそんな考えに陥る私は、女の子していて、この人が大好きで、終わってる。


「黄瀬、」

「ん?」


何スか?そう言った黄瀬は軽くしゃがんで私の目を覗き込む。マスカラも何も塗られていない長い睫毛が瞳に影をつくっていた。かなわないなあ、


「今日の放課後、ちゃんとヒマ?」

「もちろんっスよ!どっか行きたいとこある?」


にこにこと優しく笑うその後ろに何があるのかなんて分からない。分かるのはその笑顔に惹かれてやまない女の子が私以外にもたくさんたくさんいるという事。彼の放課後を予約するには運も努力も必要で、倍率は有名校の受験をするみたいなもの。
私なんて所詮黄瀬にとってそんな女の子達の内の一人に過ぎないのだけど。

どうしてこんな奴を好きになってしまって、どんどん好きになってしまうんだろう。浮かされて、操られている。彼のてのひらから動けないのはわたし。


「プリクラ、とりたい。」

「珍しいっスね…?」

「ダメ?」


いいっスよ!と笑う彼に惹かれ、牽かれ。せめていつまでもこのままで、彼のトクベツが出来ない事を願うしか私には出来ない。
この後サボって、今から行っちゃわないっスか?なんて笑った彼が私の手を牽く。仕方ないなあなんて言いながら机の横のスクールバッグを握れば、彼は満足そうに笑った。

いつまでもこうして彼に手を牽かれていたいと、叶わない願いを、願っている。



死にたがりンドロイド



20120709
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