まだ、大丈夫なんじゃないかなと思っていたのにいつの間にか、コートを着ないと外に出るのが辛くなってきた。そろそろマフラーも巻かなければいけなくなるんだろうと思う。
そんな、11月半ば、私が大好きで、大好きで、切ない日がやって来る。
「高尾。」
「お、はよ。」
「ん、」
手はポケットに入れられて、顔は首に巻かれたマフラーにしっかりと埋められているのに、鼻は赤く染まって寒さを訴えている。
高尾の寒がりは、相変わらず健在みたいだけど、放課後になれば半袖でコートを走り回るんだろう。それはとても高尾らしくて、なんだかおかしくてくすりと笑えば、なんだよ、なんて言われてしまった。
「だって、高尾寒がりすぎなんだもん。」
「うっせーよ、」
ポケットから出された手の平が、冷たくて息で暖めていた私の手の平をさらっていく。冷たー相変わらず冷え症すぎ、なんて言いながらも高尾が私の手の平を離す事はない。
こんなにも寒がりで、頬は冷たいのになぜか手の平だけは温かい高尾。それは私と手をつなぐまでにポケットの中のカイロで手の平を暖めてくれてるからだって、本当は知ってるよ。
高尾が白い息を吐く。漏れた真っ白な煙はゆっくりと空中に消えて、なんだかそれがもったいないように感じてしまった。
私は、高尾が、高尾和成が、好きだ。
二人で歩くこの道は何度歩いても暖かくて、暖かくて、切ない。どうして高尾と一緒にいるととても幸せな時に泣きそうになってしまうんだろう。
高尾も、そうだったりするのかな?
幸せな時にふいに襲って来るこの泣きそうに、身体に力が入らなくなる瞬間が私は嫌いではない。
「高尾、」
「ん」
「なんでもない、」
なんだよーと言いながら高尾が私の顔を覗き込む。今、泣きそうな顔しちゃってるかもしれないんだけど。
ゆっくりと出来た陰の先を見上げれば、その姿形までもがどこか鷹に似た真っ直ぐな眼差しが私を覗いていた。
「なーに、どしたの。」
頬に添えられた手の平はひんやりと冷たくて、やっぱり高尾はいつも手の平を暖めていてくれたのだと知る。そんな優しさに触れると、力が入らなくなって、感情のままに泣いてしまいそうになる。
どうしてこうも寒さは人をよわくしてしまうんだろう。
「すき、」
届かないんじゃないかってくらい、空中に消えてしまうんじゃないかってくらいに小さな小さな感情の塊。
そんな声さえ、彼はしっかりと聞き取って、知ってる、なんて言って私の消えそうな言葉よりもずっと確実な感情を与えてくれる。
どうしてこんなにも好きになってしまったんだろう。
「あの、ね。」
「ん。」
ゆっくりと促すように声を出してくれる高尾の言葉が私の痛みを包んでいく。
どれほど辛くても、痛くても、悲しくても、私は確実にこの人を手放す事なんて出来ないんだろうと思い知らされる。
「生きて、ここに、私の、傍に、いてくれてありがとう。」
「うん、」
「 。」
待ってた、と言って彼が私の肩を包む。本当は、ずっと伝えたかった。
でもその言葉は彼に伝えるにはどこか愛しすぎて、言う事が出来なかった、その言葉。彼がここにいる、この日だけの特別な言葉。
ああ、すきです。
「大好き。」
どちらが言ったか分からないようなその言葉は、優しく重なっていった。
冬のにおいがぼくの涙腺をだめにする
誕生日おめでとう