私が5才になった年、幼稚園の運動会の帰り道だったから確か10月半ばくらい。手をつないでいたお父さんとお母さんに「今年のクリスマスは弟も一緒だな。」「そうね、早く会いたいわね。」なんて言われて、嬉しくて二人の間で跳ねた。
弟が生まれる、そう聞いた日から随分たってお母さんのお腹は大きくなって、弟はいつ来るの?と聞けば、そうね、もうすぐかしらね。なんて話を逸らしていたお父さんとお母さんがはじめて教えてくれた明確な弟が来る日。クリスマスには、弟が来るんだ。クリスマスプレゼントより弟が楽しみでわくわくしていた。
そして、クリスマスには1ヶ月と少し早い11月21日の晴れた日に、私の弟が生まれた。しばらく雨が続いていたのにその日は私の弟の誕生日を祝うかのように晴れた日で、本当に11月?と疑うほど明るい太陽が周りを照らす暖かい日だった。
お父さんとお母さんが沢山考えて、弟は和成という名前になった。かずなり、たどたどしく名前を呼んだ私の頭をお母さんが優しく撫でてくれた。
和成は小さくて、でもとても暖かくて、私の指をぎゅっと握るその姿が愛しくて、私はきっとこの子をずっと守って行くんだなんて5才にして小さな身体で思ったものだ。
その日から和成は、たった一人の、私の1番大切な弟になった。
◇
「きゃー!和成可愛いいい!!」
「ちょ、姉ちゃんやめろって!」
「嫌よー、だって可愛いんだもん!」
カシャカシャと連写を続ける私に和成はぷいとそっぽを向いてしまったけれどそんな事私には関係ない。後ろ姿だろうがうちの弟は可愛いので選択肢は連写を続けるのみ!
入学式らしく上品なベージュのスーツを身にまとったお母さんと、黒のスーツでビシッと決めたお父さんは、相変わらず仲が良いわねぇなんて笑っていて。
今年幼稚園年長になる妹の由紀は不思議そうに私達を見ていた。その由紀の表情があまりにも可愛かったのでこちらもパチリ。
「あー、なんで私学校なんだろう…お父さん写真も映像もしっかり頼むよー!」
「あぁ、任せておけ!」
「もう、勘弁してくれって…」
子供達命なお父さんと、弟妹大好きな私に囲まれて和成はうんざりとした表情で頭を抱えた。そんな姿さえも素敵なんだから、和成ったら。
今日はそんな可愛い和成の中学入学式の日。私も行きたかったんだけど、残念ながら高校も入学式で私はその手伝いに行かなければいけない。くそぅ、無駄に生徒会なんてやるんじゃなかった。
「わ、遅刻する。そんじゃ先行くね!」
慌てて玄関に向かって、ローファーに足を入れていれば後ろから小さな足音。後ろを振り向けば、予想通りで、まだ着慣れない少し大きな学ランを着た和成が居心地悪そうに立っていた。
「ふふ、お見送り来てくれたの?」
「そんなじゃねーよ…あーもう…式準備頑張れ。」
「えへ、ありがとう。」
「ニヤけんなっつーの。行ってらっしゃい。」
「行ってきます!」
ぎゅっと和成に抱き着いて家を出れば、後ろから和成の怒鳴り声。毎日の事だから来れば抱き着かれるって分かってるのに毎日玄関まで見送りに来てくれる和成が私は大好きだ。
今日は晴天。和成が生まれた日みたいな真っ青な空がどこまでも広がっている。生まれた日の太陽みたいに暖かくて優しい子に育った和成。私の大切な大切な、弟。
「早く和成の入学式のビデオがみたーい!」
そんな言葉を言いながら、学校に向かって足を走らせる。今日も私の愛しのおとうとさまは可愛い限りだ。