同棲しよっか、なんて言葉はなかったような気がする。いつの間にか涼太が居着いて、帰ったら涼太がおかえりを言ってくれたり、涼太におかえりを言う生活に慣れてしまって…もしかしてこれ同棲?と思った時には目の前で涼太が晩御飯のオムライスを美味しそうに頬張っていた。
もしかしてこれ私達同棲してる?と涼太に聞いた時に、えー!俺ちゃんと言ったじゃないっスか!?今まで忘れてたの!?と涼太が悲鳴をあげたのは記憶に新しい…というか昨日の話だ。

そろそろ晩御飯の準備しなきゃなあ、涼太、昨日何食べたいって言ってたっけ…なんて思考がすぐに巡るあたり、涼太との生活に慣れてしまったんだと思う。
涼太はやたらと肉料理ばっかり希望するから困る…もしくはオニオングラタンスープ。レベルが高すぎる。
でも…涼太って一度もご飯に文句をつけた事はないんだよね、それこそ最初にオニオングラタンスープにチャレンジした時なんかひどいものだったのに、馬鹿みたいに笑って、美味しい美味しいって食べてくれた。

…本当に、涼太っていい男なのかもしれない。本人には、絶対言わないけど。

たまには甘やかしてやるか、なんて今日はオニオングラタンスープとハンバーグという豪華なメニューにしてあげる事にした。
涼太はああ見えて味覚が子供でオムライスとかハンバーグとかそういった物が大好きで、そんなところ可愛いなって思う。

オニオングラタンスープをオーブンに突っ込んで、ハンバーグ焼こうかなってところでチャイムが鳴った。涼太かなー。


「おかーえりって………え?」

「へへ、ただいま!」


そう言って、ちょっとだけ照れたように笑うのは紛れもなく涼太で。涼太は大きな花束を後ろ手に隠すように抱えていた。涼太の大きな身体でも隠しきれない花びらが、ひょこりと存在を主張している。


「お花、買ってきたんス!」

「や、見たらわかるけど。なんで?」

「もう一回ちゃんとお願いしようと思って!」

「何を?」


一人だけ分かったように、涼太はにこにこと笑う。涼太は大きな花束を両手で抱きしめて、私に向かってきらきらと笑う。
家の中からチン、とオニオングラタンスープが出来る音がしていた。


「えっと…俺と、同棲してくださいっス!」

「え、」

「あ、結婚はまた大学卒業した時に改めて申し込むっスから!」


安心してね!なんて涼太はまた笑った。えっと、つまり涼太は昨日の発言を元に改めて同棲を申し込む事にしたと、そういう事でおっけー?


「…馬鹿だなあ。」

「え!?」


驚いてあたふたとする涼太から大きな花束を受け取って抱きしめる。花のいい香りの中涼太のにおいが優しく香って、幸せな気持ちに包まれる。


「ありがと、ほら、今日のご飯、オニオングラタンスープとハンバーグだよ。」

「え、マジで!えっとじゃあ…じゃあ?」

「当たり前でしょ。こっちこそよろしくね。」

「!よっしゃ!」

「わ、ちょ!」


涼太は私をぐいと引き寄せて花束ごと抱きしめた。ああもう、怒らなきゃいけないとこなのかもしれないんだけど幸せだから、なんかもういいか、なんて。


「へへ、好き。」


私もだよ、ばーかなんて、涼太を抱きしめた。



ひとりぼっちの世界ではじめて、僕の隣に人ひとり分の椅子があることを知った

20120909



同棲要素が少ないような気がします…すみません。黄瀬くん書いててとても楽しかったです。麻琴さんリクエストありがとうございました!
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