いっその事、諦めてしまえられればいいのに。

努力で天才を上回る事なんて出来ないって分かっていたはずなのに、もしかしたら、もしかしたらって思って、描いて描いて、描き続けて、描く度自分を傷つけた。好きで始めたはずなのに、いつの間にか自分を傷つけるものになっていた。


「…悔しいっ。」


私に才能があったなら、天才に生まれてこられていたなら、きっとこんな思いせずに済んだのに。自分の描いた絵にぶつけた拳が痛い、パラパラと固まった絵の具が崩れ落ちる音がした。
全部、全部崩れちゃえばいいのに。


「ダメだよ、手、大切にしなくちゃ。」

「氷室く、」

「また、絵、描くんでしょ。」


いつの間にか教室に入ってきていた氷室くんは優しい声でそう言って、私の手を守るように包み込んだ。大きな手の平はすっぽりと私の手を包み込んでしまう。

バスケの練習で、マメだらけになった手の平。氷室くんと私は「同類」なのだ。


「また、1番になれなかった。敵わなかった。」

「うん、うん。」


片方の手の平を離して、私の髪をすくうように頭を撫でた。氷室くんはいつだって私を労るように、宝物を扱うように私に触れる。彼は私と同じだからいつだって私が何をして欲しいか分かっていて、それをしてくれる、優しいひと。


「どうして、神様は平等じゃないんだろう。」

「そうだね。」

「生まれた時からずっと、平等じゃない。」


無茶苦茶な事を言って泣きじゃくる私の話を肯定して、頷いて、抱きしめて。
本当に優しい、優しいひとなのに、彼も私と同じ悔しさを背負っている。神様は本当に意地悪だ。
私みたいな弱くて、性格の悪い人間に才能を与えないのはまだしも、こんなに優しい氷室くんにも才能をあげてくれない。

今でも瞼の裏に焼き付いたみたいに覚えている。天才にはなれないと、秀才止まりなんだ、と泣きそうな顔で笑った氷室くんを。はじめて私の前で泣いてくれた氷室くんを。

いつも1番を取ってしまうあの子や、氷室くんがいつも一緒にいる背の高い彼の才能が欲しい欲しいといくら手を伸ばしても、努力をしても私と氷室くんには届かない。


「でも、」

「ん?」


私の目を覗きこんだ瞳はどこまでも暖かくて、優しくて、そして、暗い。いつか私が氷室くんに光を与えられる日が、満開の笑顔にしてあげられる日が、くればいい。


「私が、天才だったら氷室くんにはきっと会えなかったね。」


泣きそうな顔をして、彼はまた私を抱きしめた。



消毒液のに浸って恋をしよう

20120909



絵の事をあまり知らないので、間違った事を書いていたら申し訳ありません…!氷室さん楽しかったです。未和さんリクエストありがとうございました!

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