高層マンションの上階は夏でも風通しがいい。網戸とカーテンを閉めて、時折カーテンが風で揺れるのを見ているのが私の楽しみのひとつだったりする。
洗濯物をあらかたたたみ終わって、晩御飯の準備をはじめる為に立ち上がる。今日の晩御飯は何にしよう、真太郎に聞くにも口を開けばおしるこだからな…と思って笑いが漏れた。

真太郎と私は、幼なじみだ。

医師になった真太郎が、一人暮らしをはじめると言い出した時は驚きと心配で真太郎のお母さんと一緒に気を失いそうになった。何てったって真太郎は、家事の腕が壊滅的なのだ。
そこで真太郎のお母さんと話して私とお母さんのローテーションで真太郎の家事を手伝いに真太郎の家に通う事にした。と、言っても真太郎のお母さんはまだ現役のピアノの先生で忙しいので最近は私がほぼ毎日来ていたりする。
高尾くんに通い妻じゃーんなんて言われた時は恥ずかしかったけど、本当はとても嬉しかった。実際は、私の片想いなんだけど。真太郎の幼なじみとして育ってきた私は、幼い頃から真太郎だけを思って来た。拒絶されて、幼なじみとしてさえ一緒にいられなくなる事を恐れて告白なんてできなかったけど、ずっと彼が好きだった。
好きで、好きで、伝えられない気持ちを抱えたままここまで来てしまった。今こうしてしている事も、真太郎にいいひとが出来てしまえばその人がする事になってしまうんだろう。

いけない、また一人で勝手に考え込んでしまった。今日は帰りが早いと言っていた真太郎が帰ってきてしまうと慌てて夕飯の準備を再開したところでチャイムの鳴る音がした。
きっと真太郎だろう、鍵があるのに真太郎はいつも律儀にチャイムを押す。鍵を開けておかえりを言うために一旦火を止めた。







「おかえり!」

「…ただいまなのだよ。」


家のチャイムを押せば、華が咲くような笑顔の彼女がいつも出迎えてくれる。幼い頃から共に過ごしている彼女の笑顔を見るとつい、やめたはずの口癖が出てしまう。


「いいにおいだな。」

「ふふ、今日はね、シチューだよ。」

「食べて帰るんだろう。」

「いいの?」

「当たり前だろう。」


そう言えば彼女は嬉しそうに笑って礼を言った。むしろ御礼を言わなければいけないのは俺の方だと言うのに…毎日夕飯をこうして作りに来て、洗濯物が溜まっていれば黙って洗って畳んでくれる。一度高尾に言われた事があるが、本当に通い妻のようだと思うのだよ………本当に妻になってくれたら嬉しいのだが。
昔から彼女を好きでいるものの、今の関係すら壊してしまうのが怖くて何も出来ないだなんて全く、本当に我ながら男らしくない。彼女が毎日迎えてくれる日々を手に入れる為なら何でもすると言うのに。


「早く、ドレス姿が見たいのだよ…。」

「え、何か言った?」


いい加減、俺から一歩を踏み出さなければ。キッチンに立つ彼女の後ろ姿に呟いて、抱きしめた。


ペパーミントのシャワー

20120908



初、緑間でした。緑間の台詞が少なくて申し訳ありません…でも書いていてとても楽しかったです!おこげさん、リクエストありがとうございました!
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