電話に出た時、間違えて英語で話してしまう回数が減った。よほどの事がない限り、日常会話に間違えて英語を交えてしまう事も減ったし、日本での生活も上手くなったと思う。
小さな頃からアメリカで育ち、最近日本に帰ってきた。一人アメリカに残る選択肢もなかったわけじゃないけど、日本の大学に興味があって数年振り、といっても日本にいた頃の記憶は私にはほとんどないんだけど――数年振りに、日本に帰国した。
ちょっとした文化の違いに戸惑ったりする事はあったけど、両親が家では日本語で過ごすようにしてくれたので日本語に不自由する事はなかった。

日本での生活が落ち着きはじめれば思い出すのは、アメリカで仲良くしていた氷室辰也と火神大我の事。住所を教えようかとアレックスが気を使ってくれたのにその好意に素直に甘える事ができなかったのはどうしてだろう。
私は昔、辰也の事が好きだった。辰也も多分、私を好きだった。何となくお互いの気持ちに気付いてはいたけど、伝える事ができなかったのは、辰也の日本への帰国日が近付いていたから。

日本とアメリカは――遠い。

その距離を考えれば気持ちを伝える事なんて叶わなかった。最後にまた会おう、絶対と辰也がキスした額がまだ熱い気がしている。本当は、もう一度会いたい、でも、会うのが怖い。
私がそう思ってる事なんてお見通しなんだろう。アレックスは、溜息を吐いていた。

会うのが怖いから会わない、会えないと決めたのに町を歩けば、もしかしたら、なんて彼の影を探しているなんてバレたらまた溜息を吐かれてしまうだろうな。


「あの、すみません、」


こんな風に幻聴まで聞くレベルに達してるなんてバレたら溜息どころかアレックス得意の蹴りを飛ばされてしまうだろう。私はちょっと結構ヤバいのかもしれない。
大体、あの頃の恋をいつまで引きずるって言うんだろう。辰也以上の人がいないなんて言い訳をしながら…
溜息をひとつ吐いて、かけられた声に反応する為に振り向いた。


「はい、なんで………タツ、ヤ?」

「やっぱり、アレックスに帰ってきてるって連絡もらってたからずっと探してたんだよ。」

「アレックスに…?」


頭がぐるぐると回っている。まさか、そんなどうしてって、英語が出てしまいそうなくらい混乱している。最初からアレックスには色んな事すべてお見通しだったのかもしれない。


「身長、伸びたね。」

「少しね。こっちの学校に進学してるの?」

「うん、大学生…」


そっか、じゃあ、一緒だね。なんて笑う辰也の表情は穏やかで、私の胸をひどく苦しくさせた。まだ、こんなにも好きなままなんて思わなかった。
私が好きなままでも、辰也がまだ好きでいてくれるなんて思わないし、思えない。

でも―――


「「あのっ――――え?」」


驚くほど綺麗に揃った声に、二人してぽかんと口を開けた。お互いを見つめたまま驚いて、そして盛大にふき出した。
ずっと離れていたのに、考える事はやっぱり同じ、って言われたみたいで胸がほうっと温かくなる。きっと辰也も今同じようなあったかい気持ちでいるんだろうなって、分かる。


「よかったら、お茶でもしない?美味しいケーキ屋さんを知ってるんだ。」

「うん。まだ日本の素敵なお店あまり知らないの。よかったら、教えて。」

「うん、喜んで。」


そうして、辰也はあの頃のように微笑んで、あの頃のように優しく私の手を包んだ。



あす、バニラの香りがする女の子に変身

20120908



高尾も書きたくてウズウズしたのですがここは氷室さんを書いてみました(笑)氷室さんの台詞が少なくてすみません…。クロさん、リクエストありがとうございました!
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