朝、偶然会った桃ちゃんはとっても嬉しそうだった。黄瀬くんはわざわざ浮足立ったメールを私にまで送ってきたし、いつもは謝りっぱなしの桜井くんまでもが、なんだかすこし嬉しそうだった。
みんなあからさまなほどにいつもと様子が違うのは、


「なんでだろうね、青峰くん。」

「おいそりゃなんかの嫌がらせか?」

「やだなー、流石の私でも誕生日の彼氏に嫌がらせなんかしないよ。」


ひくひくと青峰くんの眉間にしわが寄る。ちょっと、からかってみただけなのに青峰くんは本当に可愛いなあ。最近授業をサボったりする事が増えてから、不良だとか怖いとか言われているけど全然そんな事はなくて、青峰くんはこの通り、すぐからかいに反応しちゃったりする可愛い男の子だ。あと…ちょっと優しい。


「…ったく、素直に祝えっつーの。」

「それ自分で言っちゃう?」

「言う。だってお前俺の事好きなんだろ、祝え。」


あまりにも自信に満ち溢れた表情でそんな言葉を言うものだからついふきだしてしまった。全くこの光の中の王様には全く迷いなんてないみたいで安心した。
ふきだした勢いのままけらけらと笑いつづければ、青峰くんがなんだよ、なんて不満を漏らす。
そう言った時の表情が本当に不満そうで、小さな子供のように唇を尖らせるものだから私の笑いは更に止まらなくなってしまった。

大丈夫、誕生日を迎えようと、夏が終わりに近付こうと青峰くんの表情はもう、消えてしまわない。


「あ、そうだ。今日の月ね、ブルームーンって言うらしいよ。すごくない?」

「へーへー、どーでもいーなー。」

「どーでもいーって、青峰くんの誕生日にブルームーンだよ!すごくない?」

「そんなんいいから祝えよ、今ならキスで許してやる。」


あまりの暴君ぶりに開いた口が塞がらないとはこの事か。…まぁ、そんな青峰くんも好きだから仕方ないかな、なんて。それにしてもキスで許してやるなんて、まったくもう。


「仕方ないなー…あ、ちなみに今日の夜はあけてくれてるよね?」

「おー、」

「一緒に月、見に行こうよ。」

「は?」

「二人で、青峰くんの誕生日のブルームーン見たいんたけど。だめ?」


じっと高い位置にある瞳を見上げれば、青い瞳が私の瞳を見返しながら揺れている。ったく、仕方ねーな。なんて言いながらぷいと顔を背ける青峰くんが可愛くて、愛しい。


「好きだよ、誕生日おめでとう。生まれて、私と出会って、私を好きになってくれてありがとう。」

「おま、不意打ちでそういう事言うなバカ。」


バカ、なんて言いながら私を引き寄せて、乱暴に頭を撫でる。ぐしゃぐしゃと乱雑な動きの中にも優しい温もりを感じて、しあわせだなって思う。

彼と出会えて、色々な事が沢山あって、二人で怒って泣いて、笑って今にたどり着いて。辛い事も悲しい事も沢山あったけど、出会えて本当によかったと思う。

きっとこれからもずっと、日々を重ねながら大切と大好きをを重ねて行く。

彼が生まれてきてくれた事が、私の生きてきた中で1番、1番のしあわせ。

小さな声でもう一度ありがとうと言えば、青峰くんはまた太陽よりも暖かくて、優しい声で、バーカ、と言った。



なんてことはない、ただの

20120831
青峰くん誕生日おめでとう!
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