「テツくーん!」なんて、鈴の鳴るような可愛らしい声が甘く彼の名前を呼ぶ。その声に反応する大好きな声を聞きたくなくて、逆方向に向かって走り出した。

彼を好きになったのは、いつだったろう。同じ図書委員で当番の相談をしたのが最初だった気がする。引っ込み思案でなかなか自分から話せない上、彼を見つけるのが遅い私に彼はいつだって優しく接してくれた。
話す内に彼はバスケ部で私がマネージャーだと知った時には二人で驚いた。彼は三軍で、私は二軍マネージャーだったからお互い気付かなかったみたいだ。

いつか二軍で会えるのが楽しみだねといつも話していた、けど彼は二年になったある日突然、キャプテンの赤司くんによって二軍を飛ばし一軍に引き抜かれた。

一軍の担当マネージャーは桃井さんだ。担当が違うから直接話した事はないけど、とても綺麗な可愛い人だとは知っていた。バスケ部内で想いを寄せている男の子が多いとも知っていた。

だから一軍になると彼に聞いた時、胸が痛くて痛くて、ようやく彼が、黒子くんが好きだと気付いた。

黒子くんが一軍昇格報告と同時にそんな私を好きだと告げてくれた時は夢かと思った。黒子くんは優しい。あの日付き合いはじめてから毎日彼は私に真っ直ぐな大好きの言葉をくれる。

それでも、でも。

ある日を境に桃井さんが黒子くんに大好きオーラを出しながら話しかけはじめた時には心臓が止まるかと思った。黒子くんは気にしないで下さいなんて言うけど不安はつきなかった。
彼と桃井さんは部活中いつも一緒で、それは一日の大半を一緒にいると言う事で。可愛くて綺麗で、き、巨乳の彼女に迫られたら黒子くんだって…と思うと涙が止まらなくなった。


「…また、落ち込んでるのか。」

「あか、しくん。」

「そんなに気にするなら周りに付き合ってると公表すればいいだろう。」

「それは、恥ずかしいし…。」


私程度の奴がバスケ部のレギュラーと付き合ってるなんて周りにどう思われるだろうと思うと、周りに言えなくて、時間がたてばたつほど言いにくくなって今に至ってしまう。
彼にだけは、と黒子くんに説得されてキャプテンの赤司くんにだけは報告した。だから、赤司くんはこんな時いつだって冷たい言葉ながらも私の涙を止めてくれる。
君は馬鹿だな、なんて言いながら頭を撫でてくれる赤司くんの手の平が優しくて涙が溢れて、膝に顔を埋めた。

だから、彼が近くに来てるなんてまったく気付かなかった。


「…赤司くん、彼女にあまり触れないでくれますか。」

「黒子、ならあまり彼女を悩ませないでやってくれ。俺だって好きでやってるわけじゃない。…彼女が悩んでいる事が分かってないわけじゃないだろう?」

「…分かっています。」


そう言った黒子くんはぐいと私の腕をひいた。ひらひらと手をふりながら歩いていく赤司くんの後ろ姿を見ながら私は黒子くんの温もりに包まれていた。


「まったく君は馬鹿ですね…」

「…ごめん、なさい。」

「もっと、僕に愛されている自覚を持って下さい。」


そう言われて頬が熱くなった。何度も好きだとは言われたけれど、愛だなんて言われたのははじめてで恥ずかしくて、でも嬉しくて涙がゆるく伝う。

その涙をあたたかな指で拭ったあと、黒子くんは私の額にキスを落とした。


「秘密、ですよ?」


そんな甘くて熱い言葉の後、黒子くんは私の唇を掠めていった。



内緒アーモンドココア

20120830


キセキメンツの出演が…少ない…!素敵なリクエストでしたのにあまり生かし切れず申し訳ありません……けいちさんリクエストありがとうございました!
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