焼けたなあ、腕をかざしてみれば夏前より明らかに黒くなった肌が見える。一応日焼け止め塗ったりと努力はしたつもりなんだけど、汗で流れちゃって無駄だったみたいだ。そりゃ女子としては切ないところまあるけどこれも夏中部活を頑張った証だと思えば嬉しい気もしてくるから不思議だ。


「なーに、してんの?」

「あ、高尾。今帰り?」

「そー、真ちゃんを送ってきた帰り。真ちゃんちにチャリ置いた後は歩きだかんなー。」


そう言ってケラケラと笑いながら、私の隣に並ぶ彼、高尾和成は同じ部活の仲間。正確には、私はマネージャーなんだけど、部活の先輩も同級生も優しくていつも仲間として扱ってくれる。そんな優しい人達だから、肌が焼けるのも気にせず全力で仕事に取り頑張っちゃうんだけど。


「お前も、今帰り?」

「そーそー。あとは帰って寝るだけ。」


さっきの高尾と同じように笑いながらそんな言葉を言えば、高尾はふーんと言いながら口端をにやりとでも効果音がつきそうな角度に上げた。


「じゃあ俺とコンビニ寄ってアイスでも食べませんか、オジョーサン?」

「ふは、喜んで。」


ふざけた口調の高尾に思わず笑顔がこぼれ落ちて、肯定の意を返せば高尾は満開の笑顔を返してくれた。この高尾の笑顔を見るとつい、明日はもっと頑張ろうと思ってしまう。

本当に自分は高尾が好きなんだなあ、と思う。

いつからだろう、いつの間にか彼のこの笑顔が見たくて、見たくて仕方なくて、彼を笑顔に出来たらいいのになんて思ってて。それが恋だと気付くのに時間はかからなかった。

小さくなってしまった蝉の声が夏の終わりを示す。もうすぐ夏が、終わってしまう。


「花火大会とか、行きたかったなあ。」

「ん?行ってないの?」


ひょこりと私の顔を覗き込んだ高尾の顔が近くて肩と心臓が跳ねる。そんな私に比べて高尾は余裕そうで、俺はお前の事なんて何とも思ってないと言われているようで切なくなる。

部活で忙しかったし、周りはみんな彼氏が出来て誰も一緒に行ってくれなかったと告げれば高尾はふーん、そっかー。なんて興味のなさそうな声で言った。

…ちょっとだけ切ない。


「なあなー、」

「んー?」

「花火大会ってまだあるよな?」

「んー、少ないだろうけどあるんじゃない?」

「いかねーの?」

「…だって私みんなと違って彼氏とかいないし。」


思わず拗ねたようにそう言えば、高尾は楽しそうに笑う。こっちは深刻な問題だというのにじゃあ彼氏作ればいーじゃん?なんて、そんな簡単な問題じゃないのに。
彼氏って言ったって好きな人じゃないと意味がないって分かってない。しかもその好きな人は、高尾なのに。


「私なんか好きになってしてくれる人いないもん…」

「はい、こっちみてー。」


ぐいと首をひねられて、両頬を高尾の大きな手の平に包まれる。毎日のバスケによって出来た手の平の傷が頬に軽く触れる感触が妙に、愛しくなった。


「ここ、」

「え?」

「ここに、います。」


意味が分からずに首を傾げたけれど、すぐに脳は答えを弾き出す。私だってそこまで鈍くないつもりだ。つまり、それって。
夏のせいで暑いのか、高尾のせいで熱いのか、顔が赤く染まって行くのが自分でもわかる。


「はは、顔真っ赤。」

「うるさい…好き。」


そうして高尾は、俺も、なんて私がいつも求めていた笑顔で笑った。



僕の熱をいとってはくれないか

20120829


帰り道要素が…ない…!ごめんなさい…!でも久しぶりに自分の中で高尾らしい高尾が書けた気がします、なんて。篠木ちゃん素敵なリクエストありがとうございました!
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