ばたばたとうるさい足音が後ろから聞こえてくる。もうすぐ休み時間も終了の時間だというのに、毎日毎日御苦労というか…飽きない奴だなぁ…変わりすぎだと思う。
「せんぱーいっ!!」
今日会うのははじめてっスね!おはようっス!なんて、語尾すべてにびっくりマークがついていそうな勢いで話す、綺麗な顔立ちをした男。彼、黄瀬涼太はひとつ年下の後輩でこの学校ではちょっとした有名人だったりする。…世間的にも有名人なのかもしれないけど。
「おはよう、今日も元気だね。」
「先輩は今日も可愛いっスね!」
…この子はちょっと、いやかなり、残念だ。可愛いとか本気でちょっと、有り得ないと思う。
この学校では既に結構…というか彼が入学した頃から周知の事実なのだけれど彼、黄瀬涼太はそれなりに有名なモデルだ。高身長に、長い手足、更に切れ長の瞳が特徴的な人形かと疑うほど整った顔立ち。極めつけはサラサラの金髪、そう金髪。ちなみに彼は純日本人だ。
そんなとにかく完璧と言っていいほど整った容姿を持った彼が、冗談でも私みたいな平凡極まりない女生徒に可愛いなんてちょっとナイと思う。
私じゃなければきっと嬉しさで舞い上がっちゃってどうなる事かと黄瀬の身が心配になるレベルだ。
「ちょ、なんでそんな嫌そうな顔するんスかー!俺超褒めてるんスよ?先輩意外にこんな事言わないのに…」
「う、うるさいし…」
黄瀬の綺麗な顔が私の顔を覗き込んで来て、心臓が高鳴る。…これは、本能であって決して黄瀬にドキドキしてるわけじゃない。
「うーひどいっスよー…俺これでもモデルだし、ちょっとは自信あったけど、そこまでかわされたらそろそろ自信なくなりそうっスよ…」
しょぼん、と効果音がつきそうなほど目線を下げて、唇を噛まれてしまえばもうつい構ってしまいそうになる。相手は190センチ近くの大男だというのに…
この容姿にこの性格は反則以外の何物でもないと思う…何て言うか、ずるい。
神様はちょっと、この人に色々なものを与えすぎではないだろうか。
「ごめんごめん、あーその、嬉しいよ、ありがとう…?」
「うああ…!せんぱーい!」
「うわっ!」
がしりと抱きすくめられて、足元がふらついたけど何とか堪えた。まったくこの子はどうして私みたいな可愛くない女に懐いているのやら。とりあえず、彼を紹介してきた笠松に八つ当たりするべきか……御礼を、言うべきか。
「先輩好きっスー!!!」
「ちょ、叫ぶなバカ!」
とりあえず、もう少しはこの状態でもいいかな、なんて思ってしまう私は既に彼にほだされているのかもしれない。
…でももう少しだけは、秘密でいようと思う。いつの間にか彼を好きになってしまっていたみたいだなんて。
木苺ジャムの魔法にかかる
20120820
水瀬ちゃんありがとうでした!サバサバ系ヒロインというリクエストに応えられている気がしませんごめんなさい…!でも愛とありがとうはいっぱい詰めました…!(笑)