高校3年の頃、部活も引退して、進路も決まらずぼんやりとしていた冬の日に、俺は教室で大切なあの子と出会った。
傷付いて、傷付き疲れたと、もう消えてしまいたいと、楽しそうに笑う奴らの陰でぼろぼろになって、体中の水分がなくなっちまうんじゃないかってくらいに泣いている彼女の姿を見て、守りたいと思っていた。
適当に可愛い女の子とお付き合いってヤツはしてきたし、それなりに恋愛経験はある方だなんて思っていたけれど俺はその瞬間確かに、初めての恋をした。
この子を傷つける奴を許せない、守りたい、俺が守らなきゃなんて思ったのが、俺達のはじまりだった。
◇
あれから、4年。何だかんだで大学に進学した俺は今年で大学を卒業、それなりの企業に就職する。
4年の歳月をかけて、深く傷付いて、怖い怖いと脅えていた彼女の心と心を少しずつ通わせて、俺なりの全力で愛して、彼女も笑ってくれるようになって俺達はお互いを大切に、かけがえの存在に思えるようになっていた。なーんてちょっと俺って自意識過剰?
「あ、高尾くん、お帰りなさい。」
「たっだいまー、イイコにしてた?なんつって!」
俺の言葉を聞いて小さく笑った彼女の笑顔は優しくて、優しくて、この笑顔を守る為ならなんだって出来ると、彼女のこの笑顔を守りたいと、あの頃と変わらない気持ちで思っている。
俺の就職先が決まった頃にはじめた同棲生活。最初は一緒に住んでみたら彼女に嫌われたり、傷つけてしまったりしないかと思っていたけれど、そんな心配は必要なかったぐらい、毎日が幸せで。
帰った時に「おかえり」を言ってもらえる幸せを毎日感じていて、その事を彼女に告げれば、自分は毎日「ただいま」を言ってもらえる事が幸せだと笑ってくれて。
彼女とずっと一緒にいたいとそう思った。
「ね、ちょっとこっち来て。」
「ん?」
笑って彼女を呼べば、嬉しそうにこちらに向かってくる。そんな彼女の姿に自分の表情が幸せに染まっていく事を感じながら彼女の左手をゆっくりとひいた。
「どうしたの、高尾くん?」
不思議そうな表情を浮かべる姿さえ愛しい、なんてガラじゃないかもしんないけど。あの日、高3の時彼女に感じた気持ちは本物で今も変わらないと強く実感した。
やっぱり俺には、この子しかいないんだな。
「そろそろ名前で呼んでほしいな?」
「う…だってまだ慣れないんだよ…なんか恥ずかしいし…。」
「同じ苗字になったら困るでしょ?」
「え?」
それって、と瞳を見開いた彼女の唇を軽く塞ぐ。途端に彼女は顔を赤くして、そんな表情さえ好きで、好きで。握りしめていた左手を持ち上げて薬指に唇を落として、後ろ手に隠していた指輪を彼女の瞳の前に翳す。
「もうすぐ卒業だし、就職も決まった。だから…俺に幸せにされてくれませんか?」
俺の言葉を聞いた瞬間、彼女の瞳からはぼろぼろと涙が溢れ出す。あーあ…泣かせちゃったなあ、でもその涙はきっと、あの頃流してた悲しい悲しい涙じゃないから、いいよな、なんて。
「私にも…高尾くんを、幸せにさせて下さい。」
あ、俺今ちょっと格好悪いかも。彼女のそんな言葉に今度は俺がうっかり泣かされてしまった。泣いて、泣きながら笑って、彼女の薬指に指輪を嵌めれば、彼女も沢山の涙を流しながら嬉しそうに笑ってくれた。
お互いの右肩に頭を傾けて、幸せを分け合った。
必ず、幸せにする。
財布が温まる頃に結婚しようでいいですか
20120817
こんな長編を書きたいなあと今迷ってるというどうでもいい情報。ただ高尾と結婚したいだけ。