ああもう、なんていうか、疲れた。もうやだ。なんで私があんな事言われなくちゃならないんだ。いつまでたっても慣れる事のないヒールの高さに足は悲鳴をあげている。あぁマッサージでも行きたいなあ、そんな余裕ないけれど。ふくらはぎをさすってもまったく変わる事のない足の痛みになんかイライラまでしてきて泣きそうになって。
今から着替えて、お風呂入って、化粧落として洗顔して、化粧水と乳液してあと…そんな事を考えてたらもううんざりしてソファに倒れ込んでしまった。
ああ、ダメだ。このままじゃ絶対寝てしまう、流石に化粧は、落とさなきゃマズいって。あ、ダメだ、意識が、沈んでいく。
◇
ゆるり、ゆるりと暖かく頭を撫でられる感覚に目が覚めた。薄く目を開けば驚くほど優しい瞳が見えた。ゆるく細められた瞳は優しく優しく。
「たか、お?」
「目ぇ、覚めた?」
こくりと頷けば高尾は立ち上がりながら私の頬をやんわりと撫でた。なんで高尾がいるんだろう、疑問には思うけど眠たさが勝ってしまってちゃんと考えられない。
なんていうか、嬉しいからいっか。なんて思ってしまう私はダメな子だろうか。そうだ、化粧落とさなきゃ。
起き上がろうとするけど思うように体は動かなくて、口から小さく声が漏れただけだった。
「目、つぶって。」
「え?」
「シートになっちまうけど、化粧、落としてやるから。」
「ん、」
目をつぶると同時にひんやりとしたものが頬にあてられる。ゆっくり、優しく、まるで私の肌を労るかのように化粧落としシートであろうものは滑っていって。私の仮面をぼろぼろと剥がした。
「よし、でーきた。すっきりした?」
「あり、がとー。」
「寝たままじゃ流石に洗顔とかは出来ないけど、今日はもう寝る?」
「どうしよ、」
「…いいよ、寝な。」
そう言ってまた私の頭を撫でる。あぁやだ、私高尾に頭撫でられるの弱いんだよなぁ。すべてを許された気がして涙が零れてしまった。高尾は頭を撫でている手とは逆の手で涙を拭ってくれた。
高尾の吊り目気味な目は優しく優しく私を見つめていて、許されて行く気がしてしまう、今の私に高尾は、優しすぎる。
「お疲れさん。」
再び沈んで行く意識の中で高尾の優しい声が私を包んだ。
◇
「寝た、な。」
まったく、無理しすぎだっつーの。疲れたらいつでも頼れって言ってんのに、この強がりなお姫さんは俺になっかなか頼ってくれない。おかげで心配性になっちまったし、そろそろ行ってあげた方がいいかなーってタイミングが分かるようになっちまった。まぁそうなった自分も嬉しかったりするから、全然構わないんだけど。
寝苦しそうな表情をするもんだからまた頭を撫でれば表情が一気に柔らかくなる。まったく、眠ってる時までかわいいなんて反則だろ。
「そんなにしんどいなら、いつでも嫁にもらってやるっつってんのにな。」
結構本気なんだけど、いつも流されちまうし。次起きたら、真面目に言ってやろうかな、なんて。瞼にゆるくキスを落とせば、眠ってるくせに嬉しそうに笑う。強がりで、意地っ張りで、でも本当は弱虫で泣き虫なこいつにとって、世界がもっと優しくありますように、な。
あの子が二度と怖い夢を見ないよう
20120728
ただ高尾に化粧落としてもらいたかっただけなのだよ