女の子からの人気は、そこそこ。サッカー部エースの宮村くんや野球部エースの橘くんみたいな圧倒的にモテる人達には敵わないかもしれないけど、中くらいにはモテるんじゃないだろうか。

ただ残念な事に彼はそのクールそうな容姿と中身が正反対というか、ちょっぴり残念な事に寒いギャグというか駄洒落が好きで事あるごとに駄洒落を言うのだ。
それを知ってしまうと女の子達は結構な勢いでひいてしまって…言うなれば、百年の恋も冷めてしまう、わけなんだけど。

私が馬鹿なのか、惚れた弱みなんだかむしろそんなところも好きになってしまったのか、とにかく私は自分で言うのもなんだけど彼のそんな駄洒落スキーなところを知っても好きでいてしまう珍しい人間の一人なわけである。

正直つい最近の最近まではあいつなんて完全恋愛対象外だった。そりゃ、まぁまぁ顔は整ってるしバスケだって上手いけど、それこそ駄洒落がつまんないし思春期的には有り得ないっしょ、な対象だった、のに。

あぁもう、何て言うか、伊月の馬鹿。大嫌いだ。ごめん嘘、好きだ馬鹿。


「お、またいた。」

「ぎゃ、伊月。」

「ぎゃって、お前…ハッ!ぎゃっとするギャ「ちょ、電車。」」


帰り道のそれなりに混み合った電車の中で人混みをするりと交わして現れる。これもなんか、鷲の目とかいう能力のおかげなんだろうか。
電車の中で駄洒落を言われるのは流石に少し恥ずかしくて慌てて止めれば彼はつまらなそうに唇を尖らせる。電車の揺れに合わせてサラサラと揺れる綺麗な髪の毛がいっそ憎たらしかった。

電車ががたりと大きく揺れてそれと一緒に身体も傾く。おっと、っと声を上げて慣れた仕種でするりと手の平を滑らせる。


「大丈夫?」

「っ――大丈夫!」


流石に綺麗な顔に至近距離で見つめられれば顔も赤くなる。慌てて俯けば、何もかもを見透かしたかのように伊月が笑う声がした。あぁもうなんていうか、ムカつく。
何よりもムカつくのは、そんな伊月にドキドキとしてしまう自分だ。こんな慣れたような仕種に、ドキドキとして、いつの間にかこんな奴を好きになってしまった。


「そうだ、」

「何?」

「ちょっと寄りたいところあるんだけど、付き合ってくれる?」

「…別に、いいよ。」


こうして支えられれば嫌でも伊月の身長の高さを実感する。バスケ部では低い方らしいけれど私にしてみれば十二分に高くて、男の子で、かっこ、いい。


「…ありがとう。」


息だけで笑う、それが妙に色っぽい。駄洒落好きな、ダサい奴のくせに、かっこよくてもうなんかほんとやだ。ああもう、好きなんだよなあ。少しだけ顔をあげて目を合わせれば、切れ長の整った目は少しだけ目尻が下がって、優しい顔をしていて、なんていうか、好きは、大きくなっていってしまうばかりだ。


おもいびとちの電車

20120721
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