・長くて悲しくて暗いつまり悲恋
・管理人は香耶ちゃん大好き
高木秋人という男が、好きだった。
中学生の恋愛などみんな熱病みたいなものだというけれど、私の高木秋人への想いが恋だったのか愛だったのか、熱病だったのかだなんて今となっては最早どうでもいい。
学年一の頭脳に、それなりのイケメンに入る部類の容姿。性格は暗いわけでもなく、明るく人当たりもよくて、温厚。天は二物を云々だなんて大嘘である。
中1から同じクラスではあったけれどまぁ関わる事はないだろうな、と思っていた私な推測は簡単に裏切られ、中2の林間学習で偶然同じ班になり、それをきっかけに話すようになった。
林間学習というイベント柄班で集まって話す事も多く、林間学習当日のアスレチックやらなんやらでいつの間にか高木とは冗談を言い合い、バスでは隣に座るほど仲良くなっていた。
「携帯は?今更だけどメアド交換しよーぜ!」
そう、帰りのバスで言われた時の事を未だに覚えているあたり、私は高木の事をこの時既に好きだったんだろう。馬鹿みたいに明るい笑顔で笑ってた幼い高木と私が、まだそこにいる気がして、胸が痛む。
中3になってはじめてクラスが別れたけど、メールはしていたし、時々一緒に帰って寄り道する事もあったし、テスト前には勉強を教えてもらったりもしてた。
私が、高木に一番近い女子だと勝手に思ってた。そうだと信じてた。
「見吉さんと高木付き合ってるって噂聞いたんだけど…あんた高木と付き合ってなかったの?」
夏休み中に友達と遊んだ時、友達からそう聞いて冷や汗をかいた。まさか、と笑う私にほんとだって!と慌てる友達。夏なのに携帯を持つ手は震えていて、見吉さんと付き合ってんの?と一言メールを送るので精一杯だった。
「――もしもし?」
メールの返信はなくて、夜の9時をすぎた頃、電話がかかってきた。電話の向こうからは高木の声と、風の音が聞こえた。
「メール、見た。」
「うん、ほんとなの?」
「多分、」
「多分って、」
カラカラと笑ってみたけど、心が凍るみたいでうまく笑えなかった。口の中がやけにかわいて、声をだしにくかった。
「俺、今漫画書いてんの。」
「は?漫画?」
「真城に作画してもらって俺原作。真城最高知ってるだろ?」
「うん。」
知ってるよ、だって最近やたら一緒に帰ったりしてるなーって見てたから。漫画なんて想像つかなかったけど、そんな才能もあったわけだ。天は二物を云々なんて本当に嘘すぎて、笑える。
「漫画、載ったら読んでな。」
「いーよ、つまんないって言ってあげる。」
ひでーと叫びながらカラカラと笑う高木の声はどこかさっきの私と似ている気がした。そんなわけないのに、都合よすぎ私。高木は今やりたい事できて可愛い彼女もいて超幸せに決まってるのに。
「高木、」
「ん?」
「多分、私あんたの事好きだった。」
「多分って、」
また高木がカラカラと笑う。なんで声、震えてんの。意味わかんないよ高木、私あんたと違って馬鹿だから、意味わかんないよ。身体中の水分が目に集中したみたいに目が一気に濡れた。
「漫画のったら教えてね。」
「おう、」
「じゃあね、高木。」
「、またな。」
きっとこれが最後に決まってるのに、だからじゃあねって、言ったのに。高木なんて嫌い、大嫌いだ。不幸になっちゃえ。だから、だから別れちゃえ。
夏の生温い風が頬を掠った。
いつの間にか風が冷たくなって、また暖かくなって卒業して、高校生になって高木から一度だけメールが届いた。赤マルジャンプって雑誌に漫画が載るって一言のメール。未だに私の受信ボックスに残ってる、一通のメール。
二十歳を過ぎた頃、同窓会に行った友達からあんたと見吉さんがそのまま結婚したって聞きました。
馬鹿みたいだなって、あの頃と同じみたいに泣いた。
私の家の本棚なんてあいつは知らない。
赤マルからずっと、あいつの漫画の載ってる週刊誌も単行本も、全部全部買って捨てられない私なんて知らない。捨てられないんだよ、バカ。
いまでも
あいつがまたねと言うから
20120711