白い白いワンピースがよく似合う奴だった。俺とは違う真っ白な肌に(本人はよく日焼け止めを塗ってるのにどうして日焼けするんだと文句を言っていたが)その肌より更に白いノースリーブのワンピース。
髪だけがやけに黒くて、真っ白なワンピースにその髪がよく映えていた。
「あおみねくん、あーそぼ。」
「あ?」
屋上に寝そべりながら指先でボールを回していれば、そんな声と共に眩しかった太陽の光が遮られた。視界の端で白いワンピースのすそがひらひらと揺れている。
「つーか、なんでお前学校にいんだよ。」
「青峰くんに会いに来てあげたの。感謝してね。」
「うぜ。」
口が悪いー!と言いながら俺の隣に座る。華奢なサンダル(前にミュールだって言い返された気もする)を履いた足をふらふらと揺らしている。足からすっぽ抜けて飛んで行っちまうんじゃねーかな。
こいつが足を揺らす度にやけに長い髪が揺れて俺の首筋を擽るのが鬱陶しくて身体を起こした。
「あ、やっと起きた。」
「お前の髪の毛が鬱陶しいんだよ。」
「わざと。」
嬉しそうに笑う姿を見ていると怒るのも馬鹿らしくなって溜め息をはいた。黒い髪は指通りよくするすると流れてゆく。指を擽る感覚が心地好くて何度も梳けば、こいつは擽ったそうに身をよじった。
「暴れんな、」
「だって、擽ったい。」
「うるせ、」
折れそうな腕を引き寄せれば簡単に俺の腕に収まってしまう。肩口でクスクスと笑うあいつの声が耳にじんわりと響いた。何笑ってんだ、と言ってもこいつはクスクスと笑うばかりだった。
白いワンピースは肌触りがよく強く引き寄せてもするすると滑り落ちて、離れてしまいそうな気がする。
「青峰くんは、寂しがりだね。」
「何言ってんだ、寂しがりなのはお前だろ。俺じゃねぇ。」
こいつが笑う度、喋る度に小さな空気の塊が首筋にあたって擽ったい。俺が喋る度にこいつも擽ったいんだろうか。じんわりと背中に汗が滲む。
「暑い。」
「じゃあくっつくのやめたら?」
「やめたらお前が寂しいだろうと思ってやってんだよ。」
「ふは、そうだね。ありがとう。」
夏の生温い風が通り過ぎてゆく。水泳部が活動しているのか、プールの水が跳ねる音が聞こえた。少しだけ肩に力をいれれば、簡単に倒れてしまう。ゆるりと笑って、短い俺の髪を撫でる手の平はやさしかった。
小さな足から脱げ落ちたサンダルが屋上のコンクリートにぶつかって、小さな音をたてた。
白いワンピースと水辺の少女
20120710