り//理由なんてない愛しさ
薬指に、銀色が光る。幸せの象徴、なんて言い過ぎなんじゃないかと思ってたんだけど実際してみると見るだけで幸せがじんわりと溢れて来る。
こうして指輪をかざして幸せな気持ちになるのは何度目だろう。
和成とおそろいの指輪をするのはこれで二度目になる。1度目は、高校3年生の時。部活を引退して、少し経った時だった。
◇「ペアリング、買わね?」
「へ?」
「バスケはもう、公式にはやめるから指輪しても大丈夫だし。んーなんていうか、コイビトっぽい事全然出来てなかったじゃん?」
だから、ね?そう言った和成の表情は今まで見た事ないくらい優しくて嬉しくて、なのに何故か泣いてしまいそうなくらい苦しくて。
言いようのない感情に襲われてなんとも言えない表情をした私に向かって和成は、泣いてもいーんだぜ。なんて言って。
いつも見透かされっぱなしで悔しかったから、和成こそ泣いてもいーよ、って言ったら和成は本当に泣いた。
全国優勝した時も見なかったくらい、ぼろぼろと、ぼろぼろと泣いた。驚いて涙が引っ込んだ私を見て、和成は恥ずかしそうに涙を拭う。
「こすっちゃダメって、いつも言うの和成なのに。」
「へへ、いつもと逆だな。」
和成の手を止めて、指で涙をゆっくり拭えば、和成が優しく私の手をひいた。和成の頬に添えられた手の平が暖かい。
「なんつーか、幸せ。なまえが、俺なんかと一緒にいてくれて幸せなんだよ。」
「何言ってんの、私だって幸せだよ、ばか。」
「、好き。」
うん、そう言って抱きしめられた和成の胸はいつかよりずっとずっと大きくなっていた。叶うならこのひとの胸の中を、薬指を、いつまでも独占していたいと願っていた。
◇「おーい、なまえ。ってお前まーた指輪見てんの?」
「う、だって。」
「幸せの象徴、ってヤツだもんな。」
「ん。」
私の後ろにしゃがんだ和成が私がゆっくりと私を抱きしめる。後ろから回された腕は、相変わらず暖かくて、背中に感じる胸は大きくて、暖かい。揃えられた手の平の薬指には私と同じ色の指輪。
ゆっくりと指輪のはまった手の平同士を絡めれば、指先から幸せが流れて伝わっていくような気がした。
「和成、」
「ん?」
「大好き。あのね、生まれてきてくれて、ありがとう、ね。」
和成が後ろでふ、と息を吐いた。首筋に降り出した雨粒はきっと幸せの雨なんだろう。頭を寄せた腕は、やっぱり優しかったから、もう少しだけは振り向かないでいてあげようかな。
「ばか、俺も。」
花櫚/唯一の恋、努力20121121
HAPPY BIRTHDAY!
Kazunari Takao
The only love to you