お//大きな手の平が優しくて



「あ、」


小さな音をたてて倒れたグラスから、私の分のお酒がこぼれた。慌てて立て直したものの、グラスはもうからっぽに近く、机には小さな水溜まりが出来ていた。


「あーあー、ほら立って。服濡れてない?」


私の元へ流れ出したお酒を見た和成はすぐに立ち上がって服の心配をしてくれた。ごめんね、と謝るとお前ほんとドジなーなんて笑って私の頭を優しく撫でる。

布巾取りにいこ、と言った和成が差し出してくれた手の平は、大きくて、優しくて、いつか見た彼の手の平と重なって見えた気がした。






中学生の頃、些細な理由でいじめがはじまった。どうしたって止まらないいじめのループに幼なじみを巻き込むなんて絶対に嫌で、和成には黙っていた。

それに、和成は明るくて、面白くて、いつもクラスの人気者だったから、いじめられてるなんて恥ずかしくて、言えなかった。

和成は部活の後、いつも私と一緒に帰ってくれた。バスケ部の人にひやかされたりしても気にせずに、うっせーよーなんて笑いながら跳ね返してくれる和成は強くて、かっこよくて大好きだった。

そんな日が続いたある日の昼休み、突然和成が私のクラスにやって来た。
女の子達に机を囲まれて、お弁当にお茶をいれられたばかりだった私は最悪だと思った。和成にまで嫌われてしまうと思った。


「何、してんの。」


あ、高尾くんじゃーん。##name_1##さん、ほら、高尾くんだよー。なんて平気な口調で紡ぐ女の子の声に手を震わせながら、和成に向かって笑う。
何でもないよ、何でもないから気付かないでと願いながら、笑って、和成、突然どうしたのって言えば和成はいつもみたいに笑ってくれて。
その笑顔にほっと心を撫で下ろした。


「あれ、なまえお茶こぼしたの?」

「そーなの、##name_1##さんってばドジで…。」

「はは、そーなんだよな。こいつドジで。」


和成がそう言った瞬間女の子達がはしゃいで、次々と私を乏す言葉を並べていく。あまりの言い種に、和成が何も言い返してくれない事に、悲しみがじんわりじんわりと溢れ出して涙を流しそうになった瞬間、和成が口を開いた。


「でもなまえって悪口は言わないんだよなー。」


知ってた?と笑う和成の顔を驚いて見上げれば、和成が目を細めた。何を怖がっていたんだろう、ここにいる誰よりも彼は私の事を信じてくれているのに。


「行こ、俺のお弁当半分こしよ、な?」


声を出せば涙が溢れてしまいそうな私の手の平を和成の大きな手の平が優しく導いてくれる。
14才なんて周りに流されやすい年齢で、いじめはきっと怖いだろう年齢で、和成は黙って優しく私の手の平をひいてくれた。


いじめは、いつの間にかなくなっていた。




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