た//大切な唯一のあなたへ



大切にするって、難しい。


大切にしていたはずのぬいぐるみの耳がやぶけてしまった。その時の私にとっては抱えるほど大きくて、1番大切だったくまのぬいぐるみ。
耳の部分が大きくやぶけて、片方の耳がだらんと下がってしまったくまの姿が未だに瞳の奥に残っている。

ぼろぼろと泣く私に向かってお母さんが新しく買ってあげるからと笑ってくれたけど、いらないと首を振った。

新しいものじゃだめだった。それは同じであって同じじゃないと幼心に感じて拒否していた。
大切にしていたつもりだった。確かにいつも持ち歩いてはいたけど乱暴には、扱っていないつもりだった。大切に、していたつもりだったのに壊れてしまった。
ショックで、怖くて泣きつかれて眠るまで私は泣きつづけた。






「かーずー。」

「お、はよ。」


今年も、冬が近付いてきた。秋っていつの間に終わったの?今って、まだ秋?毎年そんな疑問を抱いている気がする十一月中旬。私の大好きな一日が今年もやって来る。

私が首に巻いているマフラーと色違いの同じマフラーをぐるりと首に巻いて彼が振り向く。行くか、と笑ったその笑顔はあの頃から少しも変わっていない気がした。

行ってらっしゃい、と小学生の頃から毎朝見送ってくれた声と同じ声で、彼とよく似た笑顔で彼のお母さんが玄関まで見送りに出て来てくれた。
少し照れ臭そうに笑う彼の隣で、行ってきますと笑った。


「寒っ。」

「和成が寒がりなのは、変わんないね。」

「うっせ。」


そう言いながら和成は私の手をとった。絡められた指先は冷たくてそんなところも昔と変わらなくて。ああ、でもいつの間にかこんなに手が大きくなっていたんだな、6年間ずっとバスケを頑張って来た証拠かななんて思いながらその手を握り返した。


「今日、鞄でかくね?」

「んーかずとの思い出のくま連れて来たから。」

「あー、あれ。」


思い出したように笑う横顔を見れば幸せが込み上げる。あの時から彼は、私に大切を沢山与えてくれる。

泣きつかれて眠って、目覚めると、お隣りさんの幼なじみの和成とお母さんがいた。なんで和成が?と寝ぼけ眼で聞いた私に向かって和成は笑った。


「なまえ、だいじょうぶだから。なまえの大切なくまは俺がなおしてやるから。」


その言葉と笑顔に安心してまた眠ってしまった私が次に目覚めた時、少しだけ縫い目が荒いながらもしっかり耳をつけたくまと、指に絆創膏をつけた和成が眠っていた。

嬉しくて泣いた私の声に和成は飛び起きた。その時から、私は幼なじみの高尾和成に恋をしている。



そして今日私は、高尾なまえになる。




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